会社分割の仕組み、実施するメリットや適しているケースを解説
2021.9.133 years前
会社分割は、会社の事業を権利・義務ごと包括的に売却するM&A手法です。事業譲渡と似ているようですが、権利・義務も引き継ぐ点が異なります。また、会社分割は4種類に分けることができ、それぞれの違いも押さえておきたいところです。
本記事では、会社分割の仕組みと、メリットや適しているケースについてまとめました。
目次
会社分割とは
会社分割とは、会社の事業を「権利・義務ごと」他の会社に売却する方法です。会社の債権・債務や契約等を包括的に承継することとなるため、会社分割と呼ばれています。
会社分割と事業譲渡の違い
会社分割は会社の事業を切り出すことになるため、事業譲渡と混同されがちですが、最も大きな違いは「引き継がれるもの」です。事業譲渡では、その事業に必要な資産と営業権などを指定して譲渡されますが、会社分割では、その事業に関する権利・義務を包括的に引き継ぎます。
事業譲渡では、買い手側が、取引先や従業員との契約継続の同意を取り付けたり、事業に必要な許認可を取得したりしなければなりません。一方の会社分割では、契約や許認可といった権利・義務も引き継がれるため、事業譲渡よりも手続きが少なくなります。
この他に、発生する税金にも違いがあります。事業譲渡は売買として消費税がかかりますが、会社分割は消費税の課税対象となりません。
なお、制度上の違いではありませんが、一般的な対価の支払い方が、事業譲渡では現金であることが多く、会社分割では株式を交付して支払うケースも少なくないという特徴があります。
会社分割の種類・方法
会社分割には4つの種類があります。「引き継がせる会社のタイプ」と「対価の支払い相手」について、それぞれ2種類あり、その組み合わせで4種類に分類することができます。
「引き継がせる会社のタイプ」での分類
新設分割:分割した権利義務を「新しく設立する会社」に引き継ぐもの
吸収分割:分割した権利義務を「別の既存の会社」に引き継ぐもの
「対価の支払い相手」での分類
分社型分割:対価を「分割した会社」に支払うもの
分割型分割:対価を「分割した会社の株主」に支払うもの
このような分類ができ、「引き継がれる会社のタイプ」と「対価の支払い相手」の組み合わせを考えると、下表のようになります。
引継ぎ先 | |||
新設する会社 | 既存の会社 | ||
対価 | 分割会社 | ①新設分社型分割 | ③吸収分社型分割 |
分割会社の株主 | ②新設分割型分割 | ④吸収分割型分割 |
会社分割のメリットと適しているケース
会社分割にはいくつかのメリットがありますが、それを活かした会社分割に適したケースを紹介します。
1.不採算事業の切り出し
不採算事業を他社に包括的に承継して社内から切り出すことで、収益性の高い事業に集中して経営できるようになります。
また、切り出す事業が自社では不採算でも、売却先のリソースやシナジーによって採算が取れる事業に生まれ変われるのであれば、その事業部門で働く従業員にとっても良いのではないでしょうか。
2.後継者や幹部社員の育成ができる
自社グループ内で新設分割を行えば、子会社が1つ増えることになります。当然、子会社の社長を置かなければなりませんが、そのポジションを後継者候補や幹部社員候補に任せることで、社長としての経験を積ませることができます。
会社の管理職と経営者では、やるべきことや考えるべきことに大きな違いがあるため、他では得難い経験になることでしょう。
3.事業ごとの責任を明確にできる
会社分割で事業ごとに会社を分けて、事業ごとに権利・義務が分割されるため、それぞれの経営状況が明確になります。各事業の業績管理もしやすくなるでしょう。
また、自由な裁量権を与えて、力を入れたい新規事業を行いやすくすることもできます。新規事業だけの会社にすることで意思決定をスピーディーに行うことができ、他社との業務提携等も進めやすくなるなど、機動的な経営体制を構築できると言えます。
4.買い手の資金が少なくても実行できる
会社分割では、買い手が支払う対価は「株式」でも構いません。そのため、買い手側に資金がなくても実行することができます。
会社分割の流れ、必要な手続き
会社分割の手続きは、新設分割か吸収分割かで異なります。詳しくはそれぞれの分割方法についてのページで解説しますが、大まかに次のような流れで進められます。
新設分割の場合
- 1.分割会社の取締役会での決議
- 2.新設分割計画書の事前開示
- 3.分割会社の株主総会での特別決議、反対株主の株式買い取り
- 4.債権者保護手続き
- 5.新設会社の設立
吸収分割の場合
- 1.吸収分割の基本合意締結
- 2.取締役会での承認
- 3.吸収分割契約締結・事前開示
- 4.株主総会の特別決議、反対株主の株式買い取り
- 5.債権者保護手続き
- 6.吸収分割実行にともなう登記の変更
おわりに
会社分割は権利・義務を包括的に引き継ぐため、事業譲渡のようにM&A以外での手続きが多くなりません。その違いを理解した上で、適した場面で会社分割を選択することが重要です。
M&Aは、目的に合わせた手段を選択しないと、思ったような効果が得られないこともあります。専門家の意見を参考にしながら、最適な手法を見つけましょう。
この記事を書いた人
シニア・プライベートバンカー、MBA(経営学修士)、1級ファイナンシャルプランニング技能士、日本証券アナリスト協会認定アナリスト横山 研太郎
ねこのて合同会社 代表。大手メーカーで経理、中小企業の役員として勤務したのち、ファイナンシャルプランナーとして独立。金融機関での経歴がないからこそできる、お客様にとってのメリットを最大化するプランを提案している。オーナー企業での役員経験を活かし、経営コンサルティングからオーナー様の資産管理・資産形成まで、幅広い相談に対応できることを強みとする。