事業承継とは?M&Aを含む4つの選択肢の各メリット・デメリットを解説
2021.8.183 years前
事業承継とは会社経営を後継者に引き継ぐことであり、子や孫、社内人材以外へ引き継ぐものも含まれます。後継者不足から事業承継が多くの企業で課題になっていることを受け、国が主導して事業承継を推進しています。
廃業を回避し、従業員の雇用を守るという視点からも事業承継を考えるための、M&Aを含めた4つの方法をメリット・デメリットともに紹介します。
目次
事業承継とは?
事業承継とは、会社経営を後継者に引き継ぐことです。
オーナー社長の子や孫を「事業承継者」と呼ぶことがありますが、誰が引き継ぐ場合でも事業承継には変わりありません。社内人材を後継者とする場合も事業承継にあたり、他社に売却するなどして事業を引き継ぐことも事業承継の1つの形と言えます。
事業承継と事業継承、どちらの表記が正しい?
事業承継に関する話題で、「事業承継」と「事業継承」のどちらが正しいのかという疑問があります。本記事で「事業承継」と書いている通り、「事業承継」の方が本質的に正しい表現だと言えるでしょう。
辞書を見ると、承継は「前の代からのものを受け継ぐこと」、継承は「前の代の人の身分・仕事・財産などを受け継ぐこと」とされています。ここからわかる通り、継承が具体的な権利などを対象としているのに対し、承継では引き継ぐものが抽象的であらゆるものを含むと考えられます。
会社を誰に引き継ぐかという視点では、「事業承継」の方がより正しいと言えるのではないでしょうか。
差し迫る事業承継の必要性
昨今、事業承継が大きな社会課題になっています。後継者がおらず、廃業する企業が相次ぐリスクが顕在化しかかっているのです。
中小企業庁の「事業承継・創業政策について」という資料(※)によれば、「今後10年の間に、中小企業・小規模事業者の70歳超の経営者が約245万人で、その半数が後継者未定である」となっています。これらの企業で廃業が続出すると、約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性があるそうです。
この問題を解決するため、事業承継税制の特例措置など、事業承継推進のためのさまざまな施策が打ち出されています。
※中小企業庁「事業承継・創業政策について」(平成31年2月5日)
事業承継4個の選択肢
前述の通り、子や孫を後継者にすることだけが事業承継ではありません。次のような4つの選択肢があると言えます。
1.親族内承継
子や孫、親族の中から後継者を見つける承継方法で、最もメジャーなものだと言えるでしょう。一族が株式を持ち続けることで資産を持ち続けることができます。また、従業員の理解を得やすい点もメリットです。
しかし、少子化や先行きへの不安感などの理由で後継者候補がいない、親族内に経営を任せられる人材がいないといった理由で、事業承継が進められていない企業が増えています。
2.親族外承継
親族外承継は、社内人材を後継者にしたり、社外人材を招聘して事業を引き継いでもらったりする方法です。
社内の人材が後継者となる場合は、業務の引継ぎもスムーズで、他の従業員からの理解も比較的得やすいと言えます。しかし、後継者となる人物に株式を購入してもらい、借入金の個人保証を引き継いでもらう必要があるため、簡単に候補者が見つからないのが問題です。
平成30年度の事業承継税制の拡充により、親族外承継がしやすい環境が整備されています。
3.M&A
別の企業に事業承継してもらう方法がM&Aです。社内外の人脈だけで後継者が見つけられるとは限らないため、近年、事業承継方法として注目されるようになってきている手法でもあります。
株式を売却するだけでなく、借入金の個人保証を外すこともできるため、経営者の創業者利益実現プランとしても課題を解決することができます。一方で、買収者を見つけるのに数年かかるケースもあることや、経営体制が大きく変わってしまうリスクもあります。
4.株式上場
株式上場(IPO)も事業承継のために活用することができます。ただ、株式の売却で所有者としての承継はできますが、経営者の承継問題を解決することはできません。
知名度が上がることで後継者が探しやすくなる側面はありますが、そもそも上場できる企業自体が少なく、上場までの時間も長いため、現実的な手段とは言えないでしょう。
事業承継は早めに対策しておくのが吉
こういった事業承継方法がありますが、そのいずれにも共通するのが、「すぐに事業承継するのは簡単ではない」ということです。
親族内承継や社内人材での親族外承継では、後継者が経営者として仕事ができるように引き継ぐ期間を長く取らなければなりません。普通の業務と異なり、マニュアルで簡単に引き継げるものではないからです。また、外部人材による親族外承継やM&Aは、適任者や買収者が簡単に見つからない可能性があります。
いずれの方法で承継するにせよ、年単位で計画的に準備することが欠かせないため、少しでも早く対策しておくことが事業承継を成功させる近道と言えます。
おわりに:親族外承継やM&Aも視野に
事業承継は、子や孫だけにこだわってしまうと候補者が見つかりにくくなり、廃業せざるを得ないリスクも高まってきます。従業員の雇用を守るためにも、親族外承継やM&Aも視野に入れて準備を進めていくべきです。
もちろん、親族内や社内人材で後継者が見つかるのがスムーズですが、念のため、M&Aでの事業承継なども同時に検討して、より多くの選択肢から承継方法を選べるようにしておきましょう。
この記事を書いた人
シニア・プライベートバンカー、MBA(経営学修士)、1級ファイナンシャルプランニング技能士、日本証券アナリスト協会認定アナリスト横山 研太郎
ねこのて合同会社 代表。大手メーカーで経理、中小企業の役員として勤務したのち、ファイナンシャルプランナーとして独立。金融機関での経歴がないからこそできる、お客様にとってのメリットを最大化するプランを提案している。オーナー企業での役員経験を活かし、経営コンサルティングからオーナー様の資産管理・資産形成まで、幅広い相談に対応できることを強みとする。