M&Aの4つのリスクとは?買い手・売り手、双方のリスクを解説
2021.8.63 years前
M&Aは企業や一部の事業を合併したり買収したりすることですが、上手に活用することで、買い手(譲受企業)・売り手(譲渡企業)の双方にとって、事業のさらなる発展につなげられる手段です。
しかし、さまざまなリスクが顕在化すると、大きな損失につながってしまいます。そのリスクにはどのようなものがあって、どうやって回避することができるのかを解説します。
目次
M&Aの4つのリスク
M&Aにおけるリスクは、大きく分けて4種類あると言えます。
- (1)財務リスク
- (2)経営リスク
- (3)人材リスク
- (4)法務リスク
財務諸表には表れていないものの、将来の業績に悪影響を及ぼす可能性のあるリスク
労務管理など、健全な会社運営に関するリスク
従業員の離職等に関するリスク
取引契約やコンプライアンスに関するリスク
これらのリスクについて、買い手(譲受企業)・売り手(譲渡企業)双方にとってどのようなものなのかを具体的に解説します。
買い手(譲受企業)側のリスク
譲受企業のリスクは、具体的には次のようなものです。
財務リスク
一番の財務リスクは「買収価格が高すぎた」というものです。買収する際には、財務状況などを詳細に分析して価格を決定します。しかし、「あの会社が欲しい」という気持ちが強すぎると、分析が甘くなってしまいがちです。
「スケールメリットで、これくらいコストダウンできるだろう」、「既存事業とのシナジー(相乗)効果で、売上がこれくらい伸びるだろう」といった、普通ではしないような希望的観測で価格を決めてしまうことがあります。
次に、貸借対照表には見えてこない「簿外債務」の存在です。貸倒引当金の計上が不足している場合や債務保証をしている場合、後になって問題が表面化することがあります。また、特殊な取引契約や、ノックイン条項を含んだデリバティブ取引といった偶発債務も、簿外債務にあたります。
経営リスク
譲受企業にとっての経営リスクとして最も大きなものは、労務関係の問題です。給与や残業代の未払いがあった場合、未払費用の債務者である法人、つまり譲受企業がその費用を負担しなければなりません。
人材リスク
買収が完了すればM&Aが終わるのではありません。従業員の中には、M&Aをよく思わない人がいる場合もあります。せっかく買収したにもかかわらず、その事業を支えるカギとなる人材が流出してしまうリスクがあります。
また、異なる風土の企業同士が一体となるため、業務の進め方の違いなどから、当初想定したほどにシナジー効果が生まれない可能性もあります。
法務リスク
取引先との契約内容において、非常に不利な条件が長期間続くような契約がなされている場合などがあります。
また、買収した企業のコンプライアンス意識に問題があった場合のリスクも考えられます。「問題が発覚しても、すぐに対処すればよい」と感じるかもしれませんが、問題が明るみに出ることで、自社のブランドイメージを毀損することにもなりかねません。
売り手(譲渡企業)側のリスク
譲渡企業のリスクは、具体的には次のようなものです。
財務リスク
譲渡企業の財務リスクには、「簿外債務が発生した場合」があります。もちろん、M&A後の取引で生じたトラブルは、譲受企業側の責任です。
しかし、M&A前に納品した製品での問題では、場合によっては簿外債務の一種である「偶発債務」として、譲受企業から損害賠償を求められる可能性があります。
経営リスク
譲渡後に、給与や残業代の未払いなどの労務問題が発生した場合、譲受企業が支払った「買収前のコスト」の補償を求めてくる可能性があります。
人材リスク
グループ会社のひとつや一部事業を売却した場合、M&Aへの反発から、重要な人材が離職してしまう恐れがあります。しかし、M&Aで売却することを、事前に従業員に伝えるのはよくありません。話が流出すると破談になる恐れがあります。
もうひとつは、売却後の従業員に対する責任です。M&Aで売却されても、従業員は雇用や待遇が継続されることを望むでしょうし、譲渡企業の経営者としてもそうする努力が必要です。雇用の維持や雇用条件を、事前に交渉しておくことも大切です。
法務リスク
M&A後にコンプライアンス上の問題が発覚した場合、結果として、譲受企業や周囲に、譲渡企業がコンプライアンス意識の低い企業と認識されてしまう恐れがあります。
M&Aのリスク回避策(リスクマネジメント)
M&Aは、メリットが大きい一方で、上記のようなリスクが多数あることも事実です。リスクをゼロにすることは困難ですが、少しでも軽減させることは可能です。
デューデリジェンス(DD)の実施
最も重要なのが、デューデリジェンスを詳細に行い、より正確な経営実態を把握することです。デューデリジェンスは基本合意契約を締結した後に行いますが、ここで譲渡企業側も積極的に協力することが欠かせません。
譲渡企業にとっては、高く売れるに越したことはありません。しかし、だからと言って、買収価格に影響を与えるような重要な懸念点をひた隠しにすれば、M&A後のリスクを大きくするだけです。
デューデリジェンスを協力して精緻に行うことによって、財務・経営・法務リスクを大きく低減することが期待できます。
表明保証保険を活用する
可能な限りリスクを軽減することができても、完全にリスクを取り除くことはできません。そこで、譲渡企業の損害賠償リスクに備える「表明保証保険」を活用する方法があります。
表明保証とは、M&Aの契約書に記載されるもので、M&Aの対象となる企業や事業についての内容が事実であると表明し、それを保証するものです。違反があった場合には、発生した損害を補償することを約束します。表明保証保険は、損害賠償によって譲渡企業に発生する損失を補填するためのものです。
ただ、表明保証違反が生じないのが望ましい姿です。デューデリジェンスを通してリスクを低減することが第一であることを忘れないようにしましょう。
PMIで人材流出リスクを低減
譲受企業にとっての財務・経営・人材リスクを取り除くためには、「PMI(Post Merger Integration)」が重要です。
M&Aによって、企業のさらなる成長を狙うものの、経営・業務・意識の統合がうまくいかず、期待通りにいかない場合も少なくありません。その結果、業績悪化や優秀な人材の離職などが起きることもあります。
このような問題が起きてしまわないよう、計画的に統合を進めるプロジェクトを立ち上げて運用していく必要があります。
M&Aの専門家のサポートを受ける
上記のようなリスク回避策を実行することが大切ですが、非常に幅広い専門的知識が求められます。M&Aに関するすべての業務を自社内でこなすことは現実的ではありません。
そこで、信頼できるM&Aアドバイザーを見つけ、助言やサポートを受けてM&Aを進めていくことをおすすめします。
おわりに
M&Aを成功させるためには、どんな事業をいくらで買収・売却するかも大切ですが、さまざまなリスクを低減させることを忘れてはいけません。デューデリジェンスで買収対象の経営実態を明確にし、M&A後にひとつの組織に統合させることができてこそ、より大きな成果につなげられます。
そのためには専門的な知識が要求されます。信頼できる優れたM&Aアドバイザーのサポートを受けることが、M&Aを成功させる近道だと言えるでしょう。
この記事を書いた人
シニア・プライベートバンカー、MBA(経営学修士)、1級ファイナンシャルプランニング技能士、日本証券アナリスト協会認定アナリスト横山 研太郎
ねこのて合同会社 代表。大手メーカーで経理、中小企業の役員として勤務したのち、ファイナンシャルプランナーとして独立。金融機関での経歴がないからこそできる、お客様にとってのメリットを最大化するプランを提案している。オーナー企業での役員経験を活かし、経営コンサルティングからオーナー様の資産管理・資産形成まで、幅広い相談に対応できることを強みとする。