LBO(レバレッジド・バイアウト)とは?M&Aで用いるメリット・デメリット、注意点を解説

M&Aの手法

2021.11.93 years前

LBO(レバレッジド・バイアウト)とは?M&Aで用いるメリット・デメリット、注意点を解説

LBOは、買収先の将来のキャッシュフローや資産を担保にして資金を借り入れて行う買収で、最終的には買収企業が負債の返済をするM&A手法です。少ない自己資金で買収できるため、PEファンドによる買収やMBO・EBOで活用されます。

投資家が返済義務を負うのではないものの、LBOを成功させるためには慎重な判断が必要です。そのためにも、LBOの特徴やメリット・デメリット、注意点について知っておきましょう。

LBO(レバレッジド・バイアウト)とは?

LBOは「レバレッジド・バイアウト(Leveraged Buyout)」の略で、M&Aでの「買収資金の調達方法」に関する手法です。「レバレッジ」は「てこの作用」を意味する言葉で、投資の世界では、借入金を使って投資資金を大きくする方法として知られています。

M&Aも投資の一種であり、借入金を使って買収するケースが良くあります。ただ、LBOは「誰が最終的な債務者になるか」が特徴的な手法です。

LBOは、投資家(企業も含む「買収者」)が「買収先の将来のキャッシュフローや資産を担保にして」資金調達して買収し、最終的には「買収した企業が債務者」となり、借入金を返済するスキームです。借入にあたってより重要なのは、買収先の信用力となります。

「自分が借りたお金を、買収先が返済する」という不思議なスキームを可能にするのが「SPC(特別目的会社)」ですが、その点については「LBOの流れ」の項目でお伝えします。

LBOとMBO・EBOの違い

バイアウト手法として、LBOに似た名前の「MBO(マネジメント・バイアウト)」「EBO(エンプロイー・バイアウト)」がありますが、これらとLBOは全く異なるものです。

LBOが「買収資金の資金調達方法」なのに対して、MBO・EBOは「誰が買収するか」を示すもので、MBOでは現経営陣が、EBOでは従業員が、自分が所属する企業を買収します。

買収する際、経営陣や従業員が自己資金だけで買収資金を準備できないため、金融機関から融資を受けて「LBOのスキームでMBO・EBOを行う」というケースも少なくありません。

LBOが使われるケース

LBOを使った買収が行われるケースには、次のようなものが挙げられます。

(1)PEファンドが投資として行う買収

PEファンド(プライベート・エクイティ・ファンド)は、投資家から集めた資金で買収を行い、企業価値を高めて売却することを目的としています。投資効率を高めることなどを理由に、多額の借入で買収資金を確保するLBOを活用するケースが多いです。

(2)MBO・EBOで買収資金を自己資金だけで準備できない場合

MBOやEBOが行われる際、高額の買収資金を自己資金だけで準備するのは簡単ではありません。そのため、LBOで買収資金を調達するケースがあります。

(3)他社の買収を少ない自己資金で行いたい場合

通常のM&Aでも、多額の自己資金を投入するのが難しい場合、LBOを使って買収が行われるケースもあります。

M&AでLBOを用いるメリット・デメリット

次に、LBOを用いる主なメリット・デメリットを2つずつ紹介します。

LBOのメリット

(1)少ない自己資金で買収ができる
LBOの一番のメリットは、自己資金が少なくても買収ができることです。もちろん、金融機関の審査を通過しなければなりませんが、10億円の企業を買収するのに、「9.5億円を借り入れて、自己資金は5,000万円だけ」とすることも可能です。

(2)買収した企業が債務者となるため、投資家のリスクは出資額に限定される
LBOのスキームで買収する場合、投資家が資金を出してSPC(特別目的会社)を設立します。事業が失敗しても、会社が倒産するだけで、投資家は出資額以上の責任を取る必要はありません。

このように、投資家にとってのLBOでの資金調達は、「返済が困難な場合でも、買収企業の資産売却などでしか回収されず、投資家が返済する必要がない」という「ノンリコースローン(非訴求型融資)」になっています。

LBOのデメリット

(1)借入金利が高く、返済期間も長い
LBOのための借入は、通常の事業資金として借りる場合よりも金利が高く設定されます。また、調達額も大きいため返済期間も長く、金利負担が大きくなる傾向があります。

(2)買収した企業の経営に大きな影響を与える
買収のために調達した借入金は、買収した企業の負債となります。多額の返済を続けなければならず、企業の収益性にも大きな影響を与えるでしょう。

しかも、借り入れにあたって細かい条項(コベナンツ)が設けられることが多く、「黒字の維持」「営業利益に対する有利子負債の割合」などの基準に抵触すると、一括で返済を求められる(期限の利益の喪失)などの重いペナルティが課せられる場合もあります。

LBOの流れ

LBOは次のような流れで進められます。

(1)SPC(特別目的会社)の設立

まず、投資家が出資して、買収するための「受け皿企業」を設立します。この受け皿企業は、「LBOでのM&Aをするための企業」であるため、「SPC(特別目的会社)」と呼ばれます。

(2)金融機関等から資金調達する

買収のための資金を、金融機関やファンドなどから調達します。その際、借入金額に対して少額の資産しか持たないSPCには返済能力がありませんが、「買収する企業の将来のキャッシュフローや保有資産」を担保として借入を行います。

(3)SPCが買収する

調達した資金で、買収しようとする企業の株式を取得します。100%子会社とするケースが一般的です。なお、この時点では、買収した企業は子会社になっているだけで、借入金はSPCの負債のままです。

(4)SPCと買収した企業を合併させる

最後に、SPCを消滅会社、買収した企業を存続会社として、合併をします。これにより、買収のための借入は「買収した企業の負債」となり、LBOによるM&Aは完了です。
以降は、買収した企業が借入金を返済することになるため、投資家は借入をしていない状態で買収できた形となります。

SPCについてより詳しくは以下の記事をご参考ください。

LBOを成功させるポイント・注意点

LBOは、投資家サイドからは「少ない自己資金で、借金せずに買収ができる」ようにも見えますが、甘い判断で買収してしまった場合のリスクは、通常のM&Aと比較しても高いと言えるでしょう。

多額の借入金を負担する買収企業の経営がうまくいってはじめて、リターンを得ることができるため、LBOを成功させるためには、計画時から、買収企業の経営状態をしっかりと見ておく必要があります

借入金の返済は、将来のキャッシュフローが一番の原資です。買収企業が、将来も安定してキャッシュを生み続けるかを慎重に判断する必要があります。

「今後の成長を見込んで将来のキャッシュフローが充分にある」と判断するのは危険です。成長できるかどうかは不確定要素だからです。それよりも、ブランド力があり安定した売上・利益が見込める企業の方がLBOに適しています。

また、返済の負担が大きく、コベナンツに抵触しないことが重要なため、景気が悪くなったとしてもキャッシュフローが小さくなりにくい、返済余力が充分にある企業であるかを確認しましょう

一方、被買収サイドが「ファンドに買収される場合」は、特に注意が必要な点があります。普通の事業会社がLBOで買収する場合は、中長期的な視点で経営するのが一般的ですが、ファンドは「可能な限り短期間で、大きく企業価値を高めること」を目的としています。

そのため、買収後に経営体制を大きく変化させようとしてきたり、利益が見込めないと判断されればすぐに他者に売却されたりするなど、短期的な視点で社内が振り回されるリスクもあります。

LBOで買収する場合は、買収に応じるまでの間に、どのような計画で買収しようとしているのかを詳しく確認しておくことが大切です。

おわりに

LBOは、借入金を活用して少額の自己資金で多額の買収を行い、SPCとの合併を通して、その債務を買収企業が負担するM&Aスキームです。少ない自己資金で買収できる点は大きなメリットですが、大きな金利負担など、買収企業の経営状態に大きな影響を与える点には充分に注意が必要です。

LBO成功のためには、買収企業が安定して利益をあげ続けられるかどうかを見極め、「多少のことでは返済に困ることは全くない」と判断できる範囲内で買収したほうがよいでしょう。必要に応じて、M&Aアドバイザーなどの信用できる専門家のアドバイスを受けて検討することをおすすめします。

また、上場企業の財務情報や株価データの知識を増やしておくこともLBO成功に役立つでしょう。なるべく多くの上場企業を一気にチェックできるFinboardというツールでは、日本と米国に上場する1万社以上の財務情報や株価データを利用できます。株式投資から事業企画まで、ぜひFinboardのデータを活用してみてください。

この記事を書いた人

シニア・プライベートバンカー、MBA(経営学修士)、1級ファイナンシャルプランニング技能士、日本証券アナリスト協会認定アナリスト横山 研太郎

ねこのて合同会社 代表。大手メーカーで経理、中小企業の役員として勤務したのち、ファイナンシャルプランナーとして独立。金融機関での経歴がないからこそできる、お客様にとってのメリットを最大化するプランを提案している。オーナー企業での役員経験を活かし、経営コンサルティングからオーナー様の資産管理・資産形成まで、幅広い相談に対応できることを強みとする。

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