事業売却と会社売却の違い、M&Aで事業売却をする際の目的・方法を解説
2022.1.73 years前
事業売却とは、会社の事業の一部または全部を譲渡するM&A手法です。売り手にとっては会社を残してM&Aできるものであり、買い手にとっては必要な部分だけを手に入れられるM&Aです。しかし、その一方で手続きが煩雑になるなどの注意点もあります。
本記事では、事業売却について、混同しやすい会社売却との違いにも触れながら、目的や方法・注意点を解説します。
事業売却とは
事業売却とは事業譲渡とも呼ばれ、会社が行っている事業の一部または全部を譲渡するM&A手法です。売却するものが「事業」であるため、譲り渡すものは「その事業に関わる不動産などの財産」だけでなく、「事業を行うために必要な技術やノウハウ」「取引先や組織」も含められる場合もあります。
事業売却と会社売却の違い
事業の全部を売却するケースと混同されやすいのが「会社売却」です。会社売却の場合は、会社そのもの、つまり経営権である株式を売却します。それに対して、事業売却では会社そのものは売却しません。
「事業を一部譲渡する」のはイメージできても、「事業の全部を譲渡する」というのがわかりにくいのが混同する原因です。ここで言う「事業」とは「会社が行っていること」であるため、「事業の全部」というのも「会社が行っているすべてのこと」であり「会社そのもの」ではありません。
ですので、事業売却では、たとえ全部の事業を売却したとしても法人格は残り、同じオーナーが新たな事業を始めるなどして経営を続けることになります。
事業売却をする目的・メリット
事業売却をする(事業を購入する)目的やメリットを、売り手・買い手それぞれの側面から見てみましょう。
【売り手】
1.会社が対価を受け取ることができる
事業売却で対価を受け取るのは、株主ではなく「事業を売却した会社」です。また、多くの場合、現金で支払われるため、会社が事業資金を得ることができます。
2.選択と集中ができる
会社のリソースを売却しない事業に集中させることができます。不採算事業を切り出すこともできますが、そもそも不採算であるため、高く売ることはできない点には注意が必要です。逆に、業績の良い事業を売却して多額の資金を手に入れ、他の事業のテコ入れに投資する方法もあります。
3.譲渡する範囲を限定できるため、従業員を残すことが可能
事業売却では、譲渡する範囲を自由に決めることができます。そのため、事業は売却しても従業員は残し、同じ従業員で新たな事業に取り組むことも可能です。
【買い手】
1.必要な事業だけを手に入れられる
会社売却でのM&Aでは、会社の権利・義務も含めて包括的に引き継ぎます。しかし、事業売却では、自社にとって必要な事業、必要な資産等だけを手に入れるM&Aが可能です。
2.簿外債務のリスクが少ない
事業売却では、引き継ぐ債権・債務等の資産を選択できます。そのため、簿外債務や偶発債務などリスクのある資産を切り離すことが可能です。このように、よりリスクを抑えてM&Aができる点もメリットです。
事業売却をする方法
事業売却をする手続きは、次のようになります。
- 1.取締役会の決議
事業売却が「重要な財産の処分」にあたる場合は、取締役会での決議が必要です。 - 2.買い手・売り手探し
- 3.事業売却の基本合意
- 4.デューデリジェンス
- 5.事業売却の最終契約締結
- 6.株主総会決議・反対株主の株式買取
事業の全部を譲渡する場合や重要な事業を譲渡する場合などは、株主総会の特別決議が必要です。 - 7.譲渡手続き
なお、一定規模の会社同士で事業売却が行われる場合は、買い手が公正取引委員会に届け出が必要です。また、有価証券報告書の提出義務がある会社であれば、臨時報告書の提出が必要です。
事業売却の買い手が注意すべきこと
事業売却では、買い手企業が売り手企業の権利・義務を承継するのではありません。そのため、下記のような点に注意が必要です。
1.許認可が引き継げないため、申請・取得しておく
事業に必要な許認可は引き継げません。許認可が必要な事業を買う場合、買収直後してすぐに事業が行えるよう、事前に許認可の申請・取得をしておきましょう。
2.従業員や取引先と個別の契約が必要
売り手企業が雇用していた従業員を引き継ぐ場合、既存の取引先との取引を継続する場合は、買い手企業があらためて個別に契約を結ばなければなりません。規模が大きい事業売却の場合は、かなり煩雑な手続きとなるため、計画的に進められるようにしておきましょう。
おわりに
事業売却は、売り手企業が営む事業の一部または全部を譲渡するものです。経営権を譲渡するのではなく、お互いが希望する事業・資産だけを譲ることができるため、自由度が高く、成長のきっかけとすることもできるでしょう。
しかし、大きな取引であり、デューデリジェンスや契約書の作成などを慎重に進めていかなければなりません。顧問弁護士・顧問税理士がM&Aに詳しいとは限りませんので、M&A仲介会社などの専門家を上手に活用することもおすすめします。
この記事を書いた人
シニア・プライベートバンカー、MBA(経営学修士)、1級ファイナンシャルプランニング技能士、日本証券アナリスト協会認定アナリスト横山 研太郎
ねこのて合同会社 代表。大手メーカーで経理、中小企業の役員として勤務したのち、ファイナンシャルプランナーとして独立。金融機関での経歴がないからこそできる、お客様にとってのメリットを最大化するプランを提案している。オーナー企業での役員経験を活かし、経営コンサルティングからオーナー様の資産管理・資産形成まで、幅広い相談に対応できることを強みとする。