会社売却で得られるメリットと注意点、会社売却の3つの方法を解説

M&Aの基礎

2021.9.93 years前

会社売却で得られるメリットと注意点、会社売却の3つの方法を解説

会社売却とは、会社の所有権である株式を他者に売却することです。経営者にとって、自身が経営し成長させた会社を売却することには大きなメリットがあります。

ただ、安易に売却交渉を進めるのにはリスクもたくさん潜んでいます。一歩間違えば、経営者自身だけでなく、従業員や取引先などにも影響が出てしまいかねません。まずは、どのようなメリットがあり、何に注意すべきかを簡単に知っておきましょう。

会社売却とは

会社売却とは、「会社の所有権を売却すること」です。グループで選択と集中を行うために子会社を売却したりする他、事業承継者が見つからない、多額の債務を圧縮するために売却するといった消極的な理由で行われることもあります。

事業譲渡との違い

会社売却と混同しやすいのが「事業譲渡」です。事業譲渡は会社売却の一種とする考え方もありますが、ここでは区別をつけるために、別のものとして解説します。

会社売却では会社の所有権である株式を売却しますが、事業譲渡では株式の売却は行いません。事業譲渡は会社の事業のみを売却するものです。

会社売却で得られるメリット

会社売却で得られるメリットには、次のようなものがあります。

事業承継ができる

会社を売却することで、外部の会社に事業承継することができます。後継者がおらず、廃業せざるを得ない場合は、さまざまな手続きに時間的にも費用的にもコストがかかります。その廃業コストを抑制する効果があるとも言えるでしょう。

連帯保証から解放される

会社を売却するときは、所有する資産だけでなく、負債もまとめて買い手が引き継ぎます。そのため、会社の借入のためにしていた個人保証がなくなります。

ただ、売却時の経営者と会社との状況によっては、個人保証が外せないケースもあるので、注意が必要です。

会社をさらに成長させられる

会社を売却すると、他社のグループに入ることでシナジー効果(相乗効果)が得られる場合があります。これまで以上に成長できれば、会社にとっても従業員にとっても良いことではないでしょうか。

「0から1」が得意な経営者もいれば、「1から10」が得意な経営者もいます。自分が成長させられるフェーズが終わったと判断して売却するのも、経営者としてすべき決断かもしれません。

創業者利益が得られる

会社売却をすることで、創業者の株式を現金化して、創業者利益が得られます。事業に出資したお金は、配当以外では株式を売却する以外に回収することはできません。創業者利益を手にすることは、創業者としてのひとつのゴールとも言えるでしょう。

M&A経験者として評価される

業績の良い会社を売却できるというのは、他社が欲しがるほどのビジネスを作り上げた証明です。自ら立ち上げた会社を成長させ、M&Aで売却した経営者は数少ないため、「M&A経験のある優れた経営者」と評価されます。中には、この経験を活かして、投資家やコンサルタントとして活躍する人もいます。

会社売却の注意点

その一方で、安易な会社売却には、次のようなリスクもあります。

希望条件で売却できないこともある

会社を売却する条件は、売り手と買い手双方の交渉によって決まります。定型的なルールがあるわけではないため、希望通りの価格で売却できないかもしれません。むしろ、言い値で売れるケースはまずないと言ってもよいでしょう。

ステークホルダーからの反発が起きることもある

会社売却は、取引先・従業員・株主などのステークホルダーにも大きな出来事です。中には、売却方針が賛同されず、取引停止や従業員の離職などがネックとなって、売却交渉が頓挫する可能性もあります。

会社売却の3つの方法

会社売却の方法は、大きく分けて3つあります。いずれも株式を売却していることには変わりありませんが、どのような形で存続するのかが異なります。

なお、下記の方法などで存続できなかった場合、会社を手放すには、清算することになるでしょう。

株式譲渡

1つ目は、株式譲渡です。これは、会社の株式を外部の第三者へ売却する方法です。経営権がその第三者に移ります。

MBO (マネジメントバイアウト)

MBOは株式譲渡の一種とも言えますが、売却する相手が社内人材や親族等、会社の関係者である点が異なります。現在の企業文化を理解している人が新たな経営者となるため、よりスムーズに経営体制を移行できる方法です。

合併

最後のひとつが合併です。これには、売却した会社が買い手の会社に吸収される「吸収合併」と、新しく設立した会社にすべての権利義務を承継させる「新設合併」があります。

会社売却の流れと手続き

会社を売却するのは簡単ではありません。次のような手順で、時間をかけて行われます。

1.売却のための準備をする
買い手候補に提示するための書類を作成するほか、買い手が見つかりやすいように不透明な取引などを解消します。

2.買い手を探す
M&A仲介会社や事業承継支援をする公的機関などの力を借りれば、よりスムーズに買い手候補を見つけることができるでしょう。

3.基本合意契約とデューデリジェンス(DD)
買い手候補と本格的な交渉に入る段階で、基本合意契約を結びます。その後に、詳細な情報を提供してDDを進めます。

4.最終契約
会社売却にともなう詳細な条件で合意すれば、最終契約をします。

このような流れで進めますが、早くても3か月から半年。買い手が見つかりにくかったり、条件交渉に難航したりすると、数年かかることもあります。

会社売却したら、経営者と従業員はどうなる?

会社売却が成立すると、それまでの経営者や従業員はどうなるのでしょうか。

経営者は、一定期間(数年程度)、会社売却後の事業を軌道に乗せるために会社に残るケースがあります。これは売却交渉時に話し合いで決められる「キーマン条項(ロックアップ)」と呼ばれるものです。キーマン条項の対象は経営者だけとは限らず、一部の重要な従業員・役員が対象となることもあります。

経営者には、キーマン条項の他に、競業避止義務が課せられるのも一般的です。売却した事業と同じ領域で、企業・出資・勤務などをしてはいけないというもので、売却交渉時に詳細が決められます。

従業員は、原則として、雇用され続けます。しかし、会社売却を良く思わず退職する人もいるかもしれませんので、事前にしっかりと売却する目的などを伝えておきましょう。

もうひとつ気をつけておきたいのが、従業員の会社売却後の待遇です。給与が引き下げられたり、解雇されたりしてしまわないよう従業員の雇用条件をしっかりと交渉しておくのも、経営者の最後の重要な仕事のひとつと言えます。

競業避止義務とは – M&A用語

おわりに:専門家の助言を受けながら慎重に進める

会社売却は、経営者にとっても会社自体にとってもメリットのあるM&A手法です。しかし、複雑な契約でもあるため、誤った判断で多くの人に迷惑をかけてしまうリスクもあります。だからこそ、売り手・買い手だけでなくステークホルダーにとっても前向きなM&Aとなるよう、専門家から助言を受けながら慎重に進めていくことが大切です。

この記事を書いた人

シニア・プライベートバンカー、MBA(経営学修士)、1級ファイナンシャルプランニング技能士、日本証券アナリスト協会認定アナリスト横山 研太郎

ねこのて合同会社 代表。大手メーカーで経理、中小企業の役員として勤務したのち、ファイナンシャルプランナーとして独立。金融機関での経歴がないからこそできる、お客様にとってのメリットを最大化するプランを提案している。オーナー企業での役員経験を活かし、経営コンサルティングからオーナー様の資産管理・資産形成まで、幅広い相談に対応できることを強みとする。

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