M&Aのロングリスト作成4つのポイント、作成の流れと注意点
2021.12.103 years前
M&Aの相手候補を見つけるために最初に行うのが「ロングリストの作成」です。ロングリストは、M&Aで求める条件を満たす会社を機械的に抽出したもので、数十社程度がピックアップされます。しかし、機械的な抽出だからと軽い気持ちで取り組んでよいものではなく、戦略的に準備することが大切です。
本記事では、ロングリスト作成の流れを、意識しておくべき4つのポイントや注意点とあわせて解説します。
ロングリストとは
ロングリストとは、M&Aの相手候補をリストアップしたものです(※)。自社の戦略にあった相手候補をリストアップすることが目的で、ロングリストをもとにして、M&A相手の詳細な選定を行っていきます。
「長い(=ロング)リスト」であるため、かなり多くの候補がリストアップされます。数十社から、多い場合には100社程度リストに載ることもあります。しかし、それだけ多くの会社とM&Aの交渉を進めるというわけではありません。ロングリストに掲載されている相手候補を精査し、さらに少数に絞り込んだショートリストを作成し、その後に各社との交渉が始まります。
※M&A以外の場面でも、候補者リストのことをロングリストと呼ぶことがあります。
ショートリストについての詳細は、こちらの記事をご覧ください。
M&Aのロングリスト作成の流れ
M&Aのロングリストを作成する流れは、次のようになります。
1.リストアップの基準を作る
まずは、M&Aの相手候補になり得る企業を、簡単にリストアップします。その基準として、事業内容や事業規模などが用いられます。さらに、M&Aの目的に合わせて、事業エリアや取扱商品群などを条件として付け加えることで、より精度の高いスクリーニングができるようになります。
2.データベースから基準にあった会社を抽出する
できるだけ多くの中から、基準に合致する企業をリストアップするために、データベースから機械的に抽出するのが一般的です。
3.ロングリスト内での絞り込みと優先順位づけ
機械的に抽出しただけでは、実質的には基準を満たしていない相手候補もピックアップされてしまいます。また、リストアップの基準の中でもより重要な項目を満たしているかなどの視点で、ロングリスト内での優先順位付けも行います。
M&Aのロングリスト作成で意識すべき4つのポイント
作成の流れの項目で説明した通り、ロングリストを作成するときには、データベースを活用して条件に該当する企業を抽出することになります。
これだけを見ると、それほど難しい作業のようには感じないかもしれません。しかし、M&Aをよりよい成功に導くためには、いろいろと意識しなければならないポイントがあります。
1.経営者が中心になって、M&Aの目的を明確にする
ロングリストは、M&Aの相手探しの第一歩です。どのような目的でM&Aを行うかをはっきりさせておかないと、どのような条件で相手候補となる企業を抽出すればいいのかが曖昧になってしまいます。
2.選択肢を増やすことが大切
M&Aで最終的に取引できる相手は1社だけです。しかし、その1社が最高の1社だったと自信を持って言えるようにするためには、できるだけ多くの候補の中から絞り込むことが大切です。ロングリストに載っている数が多すぎるのも問題ですが、より多くの選択肢から候補を絞り込めるようにしましょう。
3.ネガティブな絞り込みを行う
「ネガティブな絞り込み」とは、実質的には検討対象外とすべき候補企業を除外する作業です。ロングリストで選択肢を増やすことも大切ですが、機械的な絞り込みだけでは、M&A相手として検討すべきでない相手が含まれてしまいがちです。相手企業の事業内容や経営戦略なども考慮し、詳細に検討する必要がない企業を除外しましょう。
4.専門家の持つデータベースも活用する
できるだけ多くの企業からM&A候補をスクリーニングするロングリスト作成は、データベースを用いて行われるのが一般的です。ただ、自社ではデータベースを用意することができない場合もあります。その場合は、仲介会社などのM&Aの専門家が持っているデータベースを利用させてもらうことも可能です。
M&Aのロングリスト作成における注意点
ロングリスト作成にあたって、M&Aの失敗につながりかねない注意点を3点お伝えします。
1.M&Aの目的が不明確だと、望ましい相手がはっきりしなくなる
ロングリストを作成する時には「M&Aの目的を明確にする」ことが大切です。この点を怠ると、望ましい相手を見つけることが困難になります。事業規模や事業エリアなどについて、明確な基準が用意されていれば、データベースから抽出したリストの精度が高まります。
また、データベースから抽出されたリスト内に、本来は望ましくない企業が入っていても、ネガティブな絞り込み作業で簡単に除外することができます。望ましくない企業がロングリストに入ったままになっていると、M&A相手として最適な企業がリストの中に埋もれてしまったり、最悪の場合はリストアップされなくなったりしまう可能性があります。
実際にロングリストの作成作業にかかる前の「準備段階」が非常に重要です。
2.リストアップした企業数が少ないのは必ずしもよいとは限らない
ロングリストを作成するための基準を明確にすることで、M&Aの検討対象外となる企業を除外することができますが、その結果として企業数が少なくなりすぎるのも必ずしも良いとは限りません。
ロングリストの目的は、ある程度まとまった選択肢を用意することでもあります。経営者が気づいていなかった相手候補企業を見つけ出す機能もあるからです。作成したロングリストの数が非常に少ない場合は、当初の基準が厳しすぎたかもしれないという視点を持つのもよいでしょう。
3.専門家等に作ってもらったリストを鵜呑みにするのはよくない
M&Aの支援をしてくれる専門家の中には、M&Aの相手を探す業務の一環としてロングリストの作成をしてくれるところもあります。
しかし、そのリストを鵜呑みにして、相手探しを始めるのはよくありません。優れたロングリストを作ってくれる業者も多いはずですが、最終的に決断するのは自社であり、M&Aの成果を受け止めるのも自社です。必ず、自社の目線で適切なロングリストかどうかを確認するようにしましょう。
おわりに
ロングリストは、M&Aを本格的に始めるときのファーストステップとなる作業です。
- 1.リストアップの基準を作る
- 2.データベースから基準にあった会社を抽出する
- 3.ロングリスト内での絞り込みと優先順位づけ
このような手順で進めますが、機械的な抽出をするとはいえ、M&A交渉をするべき相手を見つけ出す作業であり、M&Aを成功させられるかどうかの第一歩とも言えます。だからこそ、ロングリストを作成する前段階の準備が大切です。M&Aの目的を明確にし、自社にとって最適な交渉相手が見つかるようにしましょう。
ただ、どのようにして基準を決めればいいのかわからない場合は、仲介業者などの専門家のアドバイスを受けながら検討することをおすすめします。
この記事を書いた人
シニア・プライベートバンカー、MBA(経営学修士)、1級ファイナンシャルプランニング技能士、日本証券アナリスト協会認定アナリスト横山 研太郎
ねこのて合同会社 代表。大手メーカーで経理、中小企業の役員として勤務したのち、ファイナンシャルプランナーとして独立。金融機関での経歴がないからこそできる、お客様にとってのメリットを最大化するプランを提案している。オーナー企業での役員経験を活かし、経営コンサルティングからオーナー様の資産管理・資産形成まで、幅広い相談に対応できることを強みとする。