M&Aのショートリスト作成(絞り込み)の3つのポイント
2021.12.103 years前
ショートリストは、M&Aに取り組み始めた段階で作成するもので、実際にアプローチする候補をピックアップしたリストです。ショートリストに掲載された会社に実際にアプローチしていくため、「M&A交渉をしたい・すべき相手」に絞り込まなければなりません。
そこで今回は、ショートリストを作成する流れと、注意しておきたいポイントなどを解説します。
ショートリストとは
ショートリストとは、M&Aの相手として「実際にアプローチする候補」としてピックアップした企業のリストです。ロングリストから、事業内容や詳細な会社の状況などをもとにして、数社程度まで絞り込んだものです。
ちなみに、ロングリストとは、簡単な企業概要や事業規模などを基準に、データベース等からピックアップしたM&A相手候補のリストです。この段階では、数十社程度がピックアップされています。ロングリストについて詳しいことは、こちらの記事をご覧ください。
ショートリストの作成は、M&Aの初期段階でも非常に重要なステップです。どのようなことに注意しながら作成していけばいいのでしょうか。
ロングリスト作成のポイントは以下の記事をご参考ください。
M&Aのショートリスト作成の流れ
ロングリストが完成した後からショートリストを作成するまでの流れは、次のようになります。
1.企業を個別に分析して絞り込む
M&Aの相手候補に求める条件や、シナジー効果がどれぐらい期待できるかなど、より理想的な相手を探す目線で、ロングリストに掲載されている企業を10程度まで絞り込みます。これを、ロングリストの絞り込みである「ネガティブな絞り込み」に対して、「ポジティブな絞り込み」と呼びます。
2.各社のプロファイルを作成する
この段階で残っている企業は、自社にとってかなり望ましいM&A相手だと言えます。これらの企業について「カンパニープロファイル」を作成します。会社の概要だけでなく、詳細な事業内容・株主構成・M&Aに対する姿勢なども記載します。
3.数社に絞り込む
カンパニープロファイルを元にして、複数の評価項目で評価し、M&Aの相手候補として優先度の高い方から数社を選び出します。
M&Aのショートリスト作成の3つのポイント
ショートリストを作成する手順は上記のようになりますが、その際に大切なポイントを3点お伝えします。
1.事前にM&A相手に期待することを優先順位付けしておく
M&Aの相手候補に求める条件や、シナジー効果をどれぐらい満たしているかを基準にして、ロングリストの掲載企業を絞り込んでいきますが、この条件や基準を具体的にしておきましょう。自社が期待していることの優先順位を明確にしておくことで、よりよい相手を残した絞り込みが可能となります。
なお、これらの基準や優先順位は、ショートリストを作成するタイミングではなく、その前段階であるロングリストを作るときに準備しておくのが望ましいでしょう。
2.よりよい相手先を見つけるためには、自社の現状把握が重要
前の項目で述べた基準や優先順位を設定する場合、自社の強みや弱みなどといった現状把握が欠かせません。自社のことをしっかりわかっているからこそ、M&Aによって補完したいポイントが明確になり、M&Aの相手に求めるべき条件がはっきりとしてきます。
3.企業分析の際は、定性面からの評価も忘れない
ショートリストを作成する作業、なかでも、カントリープロファイルを作る段階では、リストに掲載している企業について詳細な分析を行います。その際は、本当に自社とM&Aをすることが望ましいかどうかという点について、よりリアルに検討する必要があります。
会社の概要や大まかな事業内容などは簡単に調べることができますし、調査をすれば、財務状況などの定量面での情報を手に入れることもできます。しかし、これだけでは不充分です。
一体となって事業を行う方針であれば、M&Aが成立した後、経営方針や企業風土等も含めて名実ともに一枚岩となって事業を進めていくことができるかという点が重要です。グループ会社として、お互いの持つ製品・サービスを補完することが目的なのであれば、実際にどのようなプランで販路やシェアの拡大を進めていくのか、実現可能性が高いのかという視点での分析が必要となるでしょう。
このような、定量面だけでなく定性面での分析・評価を通して、ショートリストに残すべき企業を選定しなければなりません。
M&Aのショートリスト作成における注意点
ショートリストを作成したものの、最適なM&A相手が必ず見つかるとは限りません。ショートリストの作成時とその後の交渉中に注意しておきたいことを2点紹介します。
1.M&A相手に求める条件は具体的にしておく
M&A相手を絞り込むときの基準となる「条件」は、明確かつ具体的に書かなければなりません。極端な例ですが、「シナジー効果が大きい」というのでは、よいショートリストができるはずはないでしょう。
「〇〇エリアでの販路の拡大」や「△△事業に関する技術開発」など、具体的にどのような効果を求めているのかが明確にわかる条件にしましょう。曖昧な条件設定では、自社が最も求めるものが得られない結果になってしまう恐れがあります。
2.ショートリストの上位に来る企業が最適な相手とは限らない
ショートリストが完成したら、リストの優先順位に基づいて相手企業へのアプローチを始めます。しかしこのとき、ショートリストの上位にある企業が自社のM&A相手として最適だとは限らない点を忘れないようにしてください。
ショートリストを作成する段階では、あくまで外部の存在である自社が当該企業を分析したにすぎません。実際にM&A交渉を進める中で、相手企業についての理解が深まり、本当にM&Aをするべき相手なのかが明確になってくることがあります。ショートリストの作成には非常に手間がかかりますが、だからといって盲信してしまうことのないように気をつけましょう。
おわりに
ショートリストは、次のような手順で作成していきます。
- 1.企業を個別に分析して絞り込む
- 2.各社のプロファイルを作成する
- 3.数社に絞り込む
アプローチしたものの、全く相手にされなかったとなってしまうと意味がありませんから、相手にとってのメリットやM&Aの意向なども含めた詳細な分析をすることが大切です。定量的なデータだけでなく、定性的なことにも目を配り、より質の高いショートリストを作成することが、M&Aを成功させる近道となるでしょう。
この記事を書いた人
シニア・プライベートバンカー、MBA(経営学修士)、1級ファイナンシャルプランニング技能士、日本証券アナリスト協会認定アナリスト横山 研太郎
ねこのて合同会社 代表。大手メーカーで経理、中小企業の役員として勤務したのち、ファイナンシャルプランナーとして独立。金融機関での経歴がないからこそできる、お客様にとってのメリットを最大化するプランを提案している。オーナー企業での役員経験を活かし、経営コンサルティングからオーナー様の資産管理・資産形成まで、幅広い相談に対応できることを強みとする。