M&Aのファイナンスとは?2つの手法のメリット・デメリットを比較解説
2021.11.243 years前
M&Aでは、自己資金だけで買収せず、金融機関などから資金調達して進めるケースも少なくありません。そのため、「何をいくらで買収するか」と合わせて、「その資金をどうやって調達するか」ということも検討することが大切です。
そこで本記事では、M&Aのファイナンスにあたって、「どう返済するか」「誰の信用力で調達するか」の2つの視点で、さまざまな資金調達方法のメリット・デメリットを解説します。
目次
M&Aのファイナンスとは?
「ファイナンス」という言葉には、「資金」「金融」「資金調達」などの意味があります。M&Aにおけるファイナンスは「資金調達」、つまり、「M&Aをするための買収資金を調達する方法」という意味です。
M&Aでは、企業を買収したりするために多額の投資が必要です。自己資金だけで準備できるとは限らないため、金融機関や投資家など、外部から資金調達するケースが少なくありません。
その資金調達方法にはさまざまあり、それぞれにメリット・デメリットがあります。どのようなM&Aファイナンスを選択するかを誤ると、その後の企業経営にも響いてしまいます。
M&Aファイナンスの2種類の手法
まずは、「どのような返済方法にするか(投資家にどのようにリターンを渡すか)」という視点で区別できる「シニア・ローン」と「メザニン・ファイナンス」について解説します。
シニア・ローンの特徴
シニア・ローンは、通常の借入と同じ仕組みの資金調達方法です。担保を提供し、銀行の審査をクリアできれば融資が受けられます。
シニア・ローンのメリットは、他のM&Aファイナンスよりも低金利で資金調達できることです。借入期間が比較的短く、担保も提供するので、金融機関にとってのリスクも低いためです。
しかし、借り手にとっては、担保提供と借入期間の短さはデメリットとも言えるでしょう。
メザニン・ファイナンスの特徴
メザニンは「中2階」という意味で、メザニン・ファイナンスは「負債(Debt)と純資産(Equity)の中間」に位置付けられる資金調達方法です。資金の出し手が投資を回収する順位が「負債(シニア・ローン)→メザニン→株主」となるのが特徴です。
一般的には、シニア・ローンだけでは資金調達しきれない場合などに利用されます。
メザニン・ファイナンスは、シニア・ローンよりも審査が緩やかで資金調達しやすく、長期間の借入期間となるのがメリットです。一方、貸し手にとってのリスクが高くなる分だけ、金利が高くなるというデメリットがあります。
負債と純資産の中間にあたるメザニン・ファイナンスには、いくつかの種類があります。
銀行などが貸付するものは、「資本性ローン」「劣後ローン」などと呼ばれます。倒産した場合には買掛金やシニア・ローンの弁済が優先され、その後に資産が残っていれば弁済されます。そのリスクを抱える分だけ金利が高く設定されるのです。
「新株予約権付社債」や「優先株」もメザニン・ファイナンスに該当します。
M&Aファイナンスの2種類の資金調達方法
次に、「誰の信用状態を元にして資金調達するか」という視点で区別される「コーポレート・ファイナンス」と「ノンリコース・ファイナンス」について解説します。
コーポレート・ファイナンス
コーポレート・ファイナンスは一般的な資金調達で、資金調達しようとする企業の信用状態が審査の対象となります。とはいえ、M&Aでは、買収企業と買収対象企業が一体となるわけですから、買収対象企業の価値に見合った買収金額となっているかなども判断材料とされます。
ノンリコース・ファイナンス
ノンリコース・ファイナンスは買収目的のためのSPC(特別目的会社)が資金調達するもので、SPCではなく買収対象企業の信用力が審査対象となります。MBOやファンドによる買収で、LBOのスキームを使ってM&Aをする場合に多く使われるケースです。
M&Aファイナンス(シニア・ローン)の利用手順
M&Aは多額の資金が必要ですが、買収がまとまった後に「資金調達ができませんでした」というわけにはいきません。資金調達の交渉と買収交渉を同時並行で進めることになります。
最も一般的なM&Aファイナンスであるシニア・ローンを例に、どのような手順で進められるのかを簡単にまとめました。
(1)金融機関と守秘義務契約を結ぶ
金融機関が審査をするためには、どのような買収をするのかを伝えなければなりません。しかし、M&Aは外部に情報を漏らさずに進めなければなりませんから、金融機関と守秘義務契約を結んだうえで、審査に必要な資料を提出します。
(2)インディケーション・レターの取得
審査の結果、金融機関から「インディケーション・レター」という、融資金額や金利・条件などが記載された書類が提示されます。
(3)コミットメントレターとタームシートの取得
融資条件が決まったら、金融機関に融資実施の意思表明をする「コミットメントレター」を発行してもらいます。これが、M&Aの資金調達ができている証明となります。また、融資にあたっての詳細な条件を交渉し、合意内容が記載された「タームシート」を作成します。
なお、途中でM&Aの条件が変わった場合などは、速やかに金融機関と内容を共有するようにしましょう。条件が変われば融資の条件も変わる可能性があり、その情報が共有されない場合は、金融機関の心証が悪くなる恐れもあります。
(4)M&Aの契約と同時にローン契約を締結する
金融機関からの融資内容と、買収対象企業との買収条件が固まれば、双方の契約を行います。M&Aのために資金調達するのですから、M&Aの契約とローン契約は、ほぼ同時に締結するようにしましょう。
おわりに
M&Aのファイナンスでは、通常の事業資金よりも多額の資金調達をしなければならないことも少なくありません。しかも、M&Aはその後の経営状態にも大きな影響を与えます。だからこそ、M&Aの内容にあった資金調達方法を選択しないと、返済計画が事業に悪影響を及ぼしたり、市場環境の変化で返済が困難になったりしてしまう恐れもあります。
M&Aに精通した専門家のアドバイスを受けながら、資金調達と返済までも視野に入れて、適切な戦略を立てることが重要と言えるでしょう。
この記事を書いた人
シニア・プライベートバンカー、MBA(経営学修士)、1級ファイナンシャルプランニング技能士、日本証券アナリスト協会認定アナリスト横山 研太郎
ねこのて合同会社 代表。大手メーカーで経理、中小企業の役員として勤務したのち、ファイナンシャルプランナーとして独立。金融機関での経歴がないからこそできる、お客様にとってのメリットを最大化するプランを提案している。オーナー企業での役員経験を活かし、経営コンサルティングからオーナー様の資産管理・資産形成まで、幅広い相談に対応できることを強みとする。