SPC(特別目的会社)を設立する目的とは?M&AでSPCを設立するケース

資金調達

2021.12.243 years前

SPC(特別目的会社)を設立する目的とは?M&AでSPCを設立するケース

SPC(特別目的会社)とは、資産を所有するために設立される法人で、不動産などの資産の流動化、財務体質の改善やM&Aに活用されることがあります。SPCの設立にあたっては、会社法とSPC法のいずれかによる設立が可能ですが、手間や費用面、税務面での注意点にも気を配らなければなりません。

本記事では、SPCの設立目的を説明した上で、M&AでSPCを活用するケースについても解説します。

SPC(特別目的会社)とは

「SPC(Special Purpose Company)」とは、「資産を所有するため」の法人です。日本語では「特別目的会社」と呼ばれます。資産を所有することが目的であり、事業活動をするために作られる法人ではありません。

SPCの設立には、一般の株式会社や合同会社と同様に「会社法」にのっとって設立する方法と、REIT(不動産投資信託)を作る場合などに活用される「特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律(SPC法)」によって設立する方法があります。

SPCを設立する目的

SPCを設立して「資産を所有する」目的は、主に3種類あります。

1.資産の証券化・流動化

REITなどのように、不動産やローン債権をSPCが所有して小口の証券化・流動化をし、投資家を募ります。資産の証券化・流動化だけを目的とする場合には、SPC法によって設立しなければなりません。このような目的で設立されたSPCは、特に、TMK(特定目的会社)と呼ばれます。

2.特定の資産の切り出し

特定の資産を切り出すことを目的としてSPCを設立することもあります。SPCを設立することで、財務体質を改善することなどが可能です。

例えば、製造業メインの会社が、余剰資金と借入金で不動産を所有しているとします。この場合、不動産のための借入金額が大きいことで自己資本比率が低くなり、本業での借り入れに悪影響が出る場合もあります。不動産を切り出すことで、本業のみでの財務体質に変えることが可能です。

3.M&A

通常のM&Aでは、SPCを設立する必要はありません。しかし、LBO(レバレッジド・バイアウト)のスキームでM&Aを行う場合、SPCを使うケースがあります。

LBOについて詳しくは以下の記事をご参考ください。

M&AでSPCを設立するケース

M&Aを行うにあたり、買収者だけで買収資金を用意できない場合、金融機関やファンドから資金調達をしなければなりません。その資金を借り入れる場合、LBOのスキームが使われることがあります。その際に、SPCが活用されます。

まず、①買収者がSPCを設立し、②SPCが金融機関から買収対象企業の資産やキャッシュフローを担保にして買収資金を借り入れ③SPCが買収対象企業の株式を購入します。最後に、④SPCと買収対象企業が合併します。

このような手続きを踏むことで、買収者自身が負債を抱えることなく、M&Aが可能となります。

SPCを設立するメリット・デメリット

SPCを設立するメリット・デメリットには、次のようなことが挙げられます。

メリット

1.資金調達がしやすくなる
SPCを設立して投資対象となる資産だけを保有させることで、資金調達がしやすくなります。投資対象の資産だけが切り出され、その資産を当初保有していた企業の経営から切り離されるため、投資目的の資金が集まりやすくなるためです。

2.買収対象企業の信用力で資金調達ができる
SPCを設立してM&Aを行う場合、買収対象企業の資産・キャッシュフローを担保にします。そのため、買収対象企業が自社より大きい場合でも、買収後の経営状態に不安がなければ資金調達でき、「小が大を飲み込むM&A」も可能となります。

3.買収者のリスクを抑えられる
M&Aにあたっての資金調達は「SPC」の名義で行われます。買収者自身の負債ではないため、買収者による債務保証が不要であれば、M&Aのリスクを完全に切り離し、買収者のリスクを抑えることができるのです。

デメリット

1.スキームが複雑でコスト負担が多くなる
SPCを設立と運営は、通常の法人よりもスキームが複雑で、不動産売買などの資産移転に関するコストが多くなってしまいます。弁護士・会計士・信託銀行・債権回収会社(サービサー)などの専門家を利用しなければならないためです。

2.買収対象企業の負担が重い
SPCを活用したLBOでの借入では、買収金額から自己資金を差し引いた金額を調達しなければならず、借入金額が多額になります。また、設備投資や運転資金のための借入よりも高い金利が設定されます。
「高金利で多額の負債」を抱え、長期間返済し続けなければならないため、買収対象企業にとって重い負担となる可能性があります。

3.通常のM&Aよりも手続き等が煩雑になる
SPCを活用したM&Aでは、通常のM&Aに必要な手続きに加え、SPC設立に関する手続きや費用が必要です。詳細は次の項目で説明しますが、SPC法に基づくSPC設立の場合は、会社法による設立の場合よりも手間もコストもかかります。

SPCの設立に必要な条件

SPCの設立にあたって必要な条件は、「会社法に基づく設立」か「SPC法に基づく設立」かによって異なります。

【会社法に基づく設立】
会社法に基づいて設立するSPCは、通常の法人設立と変わりません。

株式会社 合同会社
資本金 1円以上
登録免許税 15万円~ 6万円~
定款の印紙 必要(電子定款の場合は不要)
役員数 取締役1人以上 社員1人以上

 

【SPC法に基づく設立】
SPC法に基づいて設立するSPCは、株式会社等を設立する場合よりも必要な手続きが多くなります。

SPC法に基づくSPC
資本金 10万円以上
登録免許税 3万円
定款の印紙 必要
役員数 2人以上(監査役を含むこと)

※取締役1人・監査役1人など

内閣総理大臣への届出 必要
資産流動化計画の作成 必要
業務開始届の提出 必要

SPCを設立する際の注意点

M&A目的でSPCを設立する場合は、手続きやコスト面から、会社法に基づくSPCとして株式会社や合同会社を設立するのが一般的でしょう。

ただ、SPCの設立からSPCと買収対象企業の合併までに「SPCの事業年度をまたぐ」場合には、資本金額の設定に注意が必要です。買収のために投じる自己資金をSPCに出資しますが、会社法上、その50%以上を資本金に組み入れなければなりません。資本金が1億円を超える場合は、外形標準課税が適用されるなど、税負担が生じる可能性があります。

また、他にも税務上の問題が生じるケースがあります。会社が合併する場合、「適格合併」に該当すれば、合併にあたって法人税等が課税されません。SPCと買収対象企業が合併する際も「適格合併」に該当することがほとんどですが、両社の繰越欠損金が引き継げるかで問題が生じることがあります。

詳細は複雑なので省略しますが、M&Aの税務に詳しい専門家のアドバイスは不可欠でしょう。

M&Aの専門家を探す際のポイントは以下の記事を参考にしてください。

おわりに

SPCは資産を所有する目的で設立されるもので、M&AでもLBOのスキームを利用する場合などに活用されます。SPCを活用してLBOでのM&Aをすることで、自社よりも大きな会社を買収できる、負債を自社ではなく買収対象企業に負担させられるなどのメリットがありますが、買収対象企業の負担が重く、税務上の注意点があるのも事実です。

M&Aを成功させるために有効な手段ですが、そのためには専門知識が欠かせないため、M&Aに詳しい専門家・アドバイザーの力を借りることをおすすめします

この記事を書いた人

シニア・プライベートバンカー、MBA(経営学修士)、1級ファイナンシャルプランニング技能士、日本証券アナリスト協会認定アナリスト横山 研太郎

ねこのて合同会社 代表。大手メーカーで経理、中小企業の役員として勤務したのち、ファイナンシャルプランナーとして独立。金融機関での経歴がないからこそできる、お客様にとってのメリットを最大化するプランを提案している。オーナー企業での役員経験を活かし、経営コンサルティングからオーナー様の資産管理・資産形成まで、幅広い相談に対応できることを強みとする。

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