物流業界のM&A事情、物流の2024年問題の影響を考える

業界別M&A

2022.3.123 years前

物流業界のM&A事情、物流の2024年問題の影響を考える

物流業界、中でもトラック運送業界は、市場環境の変化や働き方改革を受けて、厳しい競争環境にさらされています。そんな中で、生産性を高めて競争力を強化するために、また、後継者問題を解消するために、M&Aの行われる件数が増えています。なぜ、物流業界でM&Aが増えているのか、その詳細を説明しながら、M&Aの目的やM&Aを行う際にチェックしておきたいポイントについて解説します。

物流業界の市場規模

物流業界は、国土交通省の作成した2017年度のデータ(※)によると、市場規模が約24兆円、就業者数は約258万人という大きな市場規模を持った業界です。その中でも、最も大きな物流事業が「トラック運送事業」です。トラック運送事業だけでの市場規模は約16兆円、就業者数は約190万人にも上ります。

近年の推移で見ると、国内貨物の輸送量にはそれほど大きな変化はありません。しかし、どのような貨物が輸送されているかという点で大きな変化が起きています。ネットショッピングの成長にともない、物流件数が年々増加し、貨物1件あたりの貨物量が減少しているようです。

以前は店舗までの輸送が主流だったのですが、各家庭まで小さな荷物を運ぶ流れが加速しています。物流業界だけでなく、ニトリが「ラストワンマイル」の配送を強化するなど、小売業でもより細やかな配送体制を構築しようと努力している状況です。

こういった流れは、新型コロナウイルス問題によって外出が抑制される環境下で、さらに進行しました。中小事業者が多いトラック運送事業者にとっては、ただでさえ労働者が集まりにくく、ドライバーの高齢化が問題となっている中、小口の荷物が増えていくことが収益性や生産性に大きな重石となっています。

参考:国土交通省 「物流を取り巻く動向について」(2020年7月)

物流の2024年問題はM&Aにどう影響する?

さらに物流業界を悩ませているのが「2024年問題」です。働き方改革関連法により、時間外労働時間に上限が定められましたが、トラックドライバーについては2024年4月まで適用が猶予されています。

2024年4月からは、トラックドライバーの時間外労働時間は「年間960時間」までに制限されることになります。ここまで残業時間が多い事業者はそこまで多くはありませんが、将来的には、年間720時間まで制限が厳しくなる可能性もあります。こういった長期的な見通しから、業界全体で時間外労働の削減への動きが活発化していくことは間違いないでしょう。

そうなると、トラックドライバーの労働時間が減少した分だけ、売上も減少してしまいます。同じ売上を維持しようとすれば、より多くのトラックドライバーを集めなければなりません。もちろん、時間外手当として支払っていた金額が少なくなるため、収益的にはプラスに働きますが、そもそも採用が非常に困難な業界であるため、トラックドライバーを増やすのは簡単ではないでしょう。

物流業界のM&A事情

このような、物流環境の変化と2024年問題の影響を最も強く受けるのが、中小零細規模の運送会社です

これらの問題を解決するためには、会社の配送エリアを拡大して取扱貨物量を増やすだけでは限界があります。売上は増えるかもしれませんが、移動距離が長くなり、配送効率を犠牲にしなければならない部分もあるため、生産性を向上させることが不可欠です。しかし、生産性向上のためには、大規模な投資も必要になるため、中小零細の運送会社にはなかなかハードルが高いのが現実です。

さらに、後継者不足の問題もあり、廃業を避けるためにM&Aによる会社の売却も検討するケースも増えています。一方で、その買い手側となるのは、大手や中堅クラスの運送会社です。

大手や中堅クラスの運送会社であっても、貨物の小口化や運賃の値上げが困難であることなどで悩んでいます。その解決策として「サードパーティー・ロジスティクス(3PL)」に力を入れている会社が増えているのですが、サードパーティー・ロジスティクスを強化していくためには、物流倉庫を整備するだけではなく、ラストワンマイルの配送体制も充実しなければなりません。

そんな配送の足を手に入れるために、中小零細の運送会社を買収するケースが増えています。売り手側としては、後継者問題を解決することができる、従業員の雇用維持ができる、廃業した場合よりも手元にお金が残る可能性が高いといったメリットがあり、運送業界でのM&Aが増えているのです。

物流事業のM&Aでチェックしておきたいポイント

物流事業のM&Aを行う際、買い手側として特にチェックしておきたいのが「従業員の引き継ぎ」と「未払残業代等の状況確認」です。

①従業員の引き継ぎ

M&Aを行う目的に、「配送体制やドライバーの確保」が含まれているのであれば、従業員を引き続き雇用することが非常に重要なポイントになります。そのため、従業員の継続雇用を前提にした交渉が必要です。

ただ、雇用条件や収入面で従業員がしっかりと定着してくれるような条件を提示し、M&Aの目的が達成できるようにしましょう。買収後に業務効率化などを行うことを考えると、組織を一体化させるためのPMIも重要です。

②未払残業代等の状況確認

特に、業績が厳しい運送会社を買収する場合は、未払残業代が残っていたり、サービス残業が常態化していたりすることがあります。買収後に発覚した場合には、金銭的な負担をしなければならなくなりますし、コンプライアンス的な問題にも発展しかねません。デューデリジェンスの段階で細かくチェックを行い、未払残業代等があった場合にはそれを反映したバリュエーションをしましょう。

おわりに

物流業界は、今後も貨物の小口化への対応、生産性の向上などの問題が山積しています。こういった問題を解決するためには、ある程度の規模化が進んでいる方が課題解決に取り組みやすいのも事実です。

2024年に向けて、さらにその先に向けて、運送業界でのM&Aは今後も増加傾向になると考えられます。ただ、M&Aは簡単に短期間でできるものではありません。時間をかけて慎重に進めるべきものであるため、早いうちに専門家への相談をおすすめします。

この記事を書いた人

シニア・プライベートバンカー、MBA(経営学修士)、1級ファイナンシャルプランニング技能士、日本証券アナリスト協会認定アナリスト横山 研太郎

ねこのて合同会社 代表。大手メーカーで経理、中小企業の役員として勤務したのち、ファイナンシャルプランナーとして独立。金融機関での経歴がないからこそできる、お客様にとってのメリットを最大化するプランを提案している。オーナー企業での役員経験を活かし、経営コンサルティングからオーナー様の資産管理・資産形成まで、幅広い相談に対応できることを強みとする。

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