学習塾業界のM&A事情、デジタル化加速の影響を考える
2022.3.123 years前
学習塾業界は、デジタル化の加速が著しい業界でもあります。新型コロナウイルスの影響で、対面講義からオンラインへの移行を進めざるを得なかったことも大きな要因です。そんな学習塾業界ですが、少子化による競争激化や後継者不足などにより、M&Aも盛んになっています。
本記事では、学習塾業界の現状と、M&Aにあたって注意しておきたいポイントについて解説します。
目次
学習塾の市場規模
学習塾と予備校の市場規模は、矢野経済研究所の調査によると、2020年度で9,240億円となっています。前年比で5%弱の減少ですが、これは新型コロナウイルスの影響によるものが大きく、2021年度は2019年度までの水準に回復するとみられています。そのため、現在の学習塾関連の市場規模は、おおむね横ばい傾向が続いていると考えられるでしょう。
少子化が進んでいるのは、学習塾業界にとっては逆風で、生徒の獲得競争も激しくなっています。しかし、1人あたりの教育費が上昇していること、社会人のスキルアップなどの需要が拡大していることなどもあり、子ども向け以外の事業に参入している企業も少なくありません。
とはいえ、こういった対応が可能なのは大手の学習塾のみで、学習塾業界のかなりを占める小規模事業者は事業拡大を進められる状態ではありません。事業拡大どころか、後継者問題に悩んでいるところも多いようです。
学習塾業界のM&A事情
こういった状況を背景に、学習塾業界ではM&Aが加速しています。
小規模事業者にとっては、M&Aの売り手となることで、後継者問題を解決することができ、大手のブランド力やコンテンツを利用することもできるというメリットもあります。買い手側にとっては、新しい地域新しいターゲットへの参入をすることができますが、その際に、買収先の生徒の通塾先を変えずに済む点もメリットと言えます。また、学習塾は独自のノウハウを持っているところも多いため、それを手に入れることも可能です。
学習塾業界でのM&Aは、同業者同士で行われるケースが中心でした。地域・ターゲットの拡大を通して規模を大きくすることによる業務効率化などを目的としています。
しかし、近年増加しているのが、学習塾業界に関連する業種からの参入です。社会人教育を行っている企業が子ども向け教育サービスを提供している企業を買収するケースや、専門的な資格が必要な職員を雇用している事業者が資格スクールを買収するケースなどです。さらには、大手の学習塾などがEdTech企業への出資を行う事例も出てきています。
デジタル化の流れが加速
今、教育業界ではデジタル化の流れが急加速しています。新型コロナウイルス問題で、対面で講義を行うことが難しくなったため、オンライン授業を行なったり、オンラインの特性を利用した教材が開発されたりしています。
対面での講義を求める声も根強いですが、オンライン授業は、ネット環境があれば日本国内はもちろん、世界中のどこでも講義の提供が可能になるというメリットがあります。これを受けて、大手の学習塾では、教室を持っていない地方でも生徒を集めることができるようになりました。
デジタル教材は、教材を利用した時のデータを用いて詳細な分析が可能になります。AI技術が発達したことで、より効率的でより効果的な学習方法を提案することもできるようになりました。
このデジタル化の推進により、一部の優れた講師だけが持っていたノウハウを、より広く活用できるようになったと言えるでしょう。講師の人材確保が難しく、人件費アップにも悩まされていた学習塾業界が抱えている課題を解決させる1つの手段にもなっています。
こういった教育サービスそのものについてだけでなく、保護者の方との連絡でもデジタル化の波が押し寄せています。昔は、電話や保護者向けの配布物でコミュニケーションをとるのが当たり前でしたが、最近では、それでは充分なコミュニケーションが取れなくなってきています。スマートフォンのアプリなど、いつでも連絡を見られるような仕組みを導入することで、塾生の定着率を高めている学習塾もあるようです。
学習塾事業のM&Aでチェックしておきたいポイント
学習塾事業のM&Aをするときに注意しておきたいポイントには、次のようなものが挙げられます。
①教材の著作権
教材の著作権をしっかりと確認しましょう。売り手側の持つ独自コンテンツを利用する場合、教材の著作権ごと買い取ったり、利用料を支払ったりするなど条件をはっきりと決めておくことが大切です。
②買収先の塾のキーパーソンを押さえておく
デジタル化が進んだとはいえ、まだまだ塾長や優秀な講師の存在が生徒を集める大きな力になっていることも少なくありません。買収によって、必要としている人材が流出してしまうことのないように注意しましょう。
③ただ教室数が増えただけにさせない
シナジー効果が得られる買収にしましょう。学習塾は、ともするとそれぞれの教室が独立して運営されているような形になってしまいかねません。M&Aを行っても、各教室がバラバラであれば、ただ単に教室数が増えただけでメリットはほとんどありません。
各教室の良さを共有して、さらに良いサービスを提供できるようにしたり、統合したことで業務の負担軽減を通してコスト削減につなげたりするなどして、M&Aがただの足し算に終わらないようにしたいものです。
おわりに
学習塾業界でM&Aが増えてきているとはいえ、マンパワーに頼っていた事業モデルとデジタル化が急速に進んでいることを考えると、M&Aを大きな成長につなげられるかという点で、成否が分かれてくると考えられます。
M&Aをきっかけにしっかりとシナジーを作り出すことが大切ですが、うまくいかなかった場合には、生徒や保護者に迷惑をかけてしまいかねません。そうなってしまわないよう、学習塾業界に精通したM&Aのアドバイザーが不可欠だと言えます。M&Aを検討する際は、仲介会社選びを慎重に行うようにしましょう。
この記事を書いた人
シニア・プライベートバンカー、MBA(経営学修士)、1級ファイナンシャルプランニング技能士、日本証券アナリスト協会認定アナリスト横山 研太郎
ねこのて合同会社 代表。大手メーカーで経理、中小企業の役員として勤務したのち、ファイナンシャルプランナーとして独立。金融機関での経歴がないからこそできる、お客様にとってのメリットを最大化するプランを提案している。オーナー企業での役員経験を活かし、経営コンサルティングからオーナー様の資産管理・資産形成まで、幅広い相談に対応できることを強みとする。