後継者人材バンクの概要やフローを解説、利用するメリットや注意点
2022.1.23 years前
後継者人材バンクは、後継者不在の小規模事業者と創業希望者をマッチング支援するものです。後継者不在に悩む経営者にとっての事業承継手段になるだけでなく、創業・起業を考えている人にとっても、既存の事業を引き継ぐことで、リスクを抑制して事業を始めることが可能になります。
そこで本記事では、後継者人材バンクを利用するフローを、メリットや注意点と合わせて解説します。
目次
後継者人材バンクとは
後継者人材バンクは、後継者不在の小規模事業者と、創業・起業を考えている創業希望者とのマッチング支援を行っているサービスです。全国の都道府県に設置されている公的機関である事業承継・引継ぎ支援センターが、後継者人材バンクの運営を行っています。
小規模事業者と創業希望者のマッチングをし、事業承継・引継ぎ支援センターによる支援を受けながら、M&Aのクロージングまで進めることができます。
後継者人材バンクを利用するメリット
後継者不在の小規模事業者と創業希望者それぞれにとっての、後継者人材バンクを利用するメリットには、次のようなことが挙げられます。
1.事業者のメリット
家族や親族、従業員など、社内承継での後継者がいない場合、社外からの後継者も見つからないと廃業せざるを得なくなってしまいます。廃業するとなると、廃業コストだけでなく、従業員や取引先に迷惑をかけてしまうことを気に病む経営者の方もいるのではないでしょうか。
社外で後継者候補を探すのは簡単ではありませんが、後継者人材バンクを利用することで、起業を考えている人から後継者候補を見つけることが可能です。子どもや親族がいるものの後継者としての適性に欠ける場合も、後継者人材バンクを利用することで、より適格な後継者を探すこともできるでしょう。
M&A仲介会社などのM&A支援業者は、小規模事業者の事業承継・M&Aの支援をしていない場合があります。それに対して、後継者人材バンクは小規模事業者向けとして設置されている公的機関であるため、相談しやすいと言えるでしょう。
2.創業希望者のメリット
創業・起業した場合は、事務所や店舗の準備から営業活動までをイチから進めていかなければなりません。しかし、後継者人材バンクを利用することで、準備できる自己資金の範囲で引き継げる事業を探すことができます。
取引先や事務所・店舗などの経営資源を引き継げるだけでなく、地域でのブランド力や経営ノウハウといった目には見えない資産も引き継ぐことが可能です。こういった長く事業を続けていることで得られるものを引き継ぎ、創業リスクを抑制できるのが大きなメリットです。
後継者人材バンクのフロー
後継者人材バンクは、小規模事業者と創業希望者のマッチングをする機関ですが、M&Aマッチングサイトのようなものとは異なります。次のような手続きで、事業の引継ぎまで進められます。
1.情報提供・収集
事業者は、事業承継・引継ぎ支援センターに連絡し、面談の予約をします。面談の際は、より具体的な相談ができるよう、決算書や会社概要などの資料を用意しておきましょう。
この相談時点で、すぐに後継者探しをする前に経営改善等が必要だと判断された場合は、商工会議所や中小企業再生支援協議会などの相談窓口を紹介される場合もあります。
面談を経て、譲渡の意思確認ができれば、後継者人材バンクのデータベースに事業概要が登録されます。
創業希望者は、事業承継・引継ぎ支援センターと連携している商工会議所等の支援機関が実施している「創業セミナー」等を受講するなどし、その後に後継者人材バンクに登録します。起業に対する考え方・意欲・希望条件などのヒアリングが行われ、その後に正式登録となります。
2.マッチング
データベースに登録された事業者と創業希望者のデータから、マッチすると思われる事業者の情報を創業希望者に情報提供します。その際に提供されるのは、社名や屋号が特定されないノンネームの情報です。具体的には、事業内容・従業員数・年商・経常利益・純資産などの概要と、譲渡理由・譲渡の希望形態などです。
次に、ノンネーム情報を見て関心を持った創業希望者の概要が事業者側に伝えられ、事業者側も面談を希望すれば、マッチングが行われます。
マッチングの面談は、事業承継・引継ぎ支援センターの職員が立ち会って行われます。面談は基本的に3回行われます。ただ、この3回で引継ぎが正式決定されるのではなく、M&Aの基本合意までの段階です。
3.引継ぎまで
面談を通して合意文書が締結されれば、最終的な引継ぎに向けての手続きに入ります。最終的な譲渡条件などをすり合わせる必要があるため、必要に応じて士業などの専門家の支援を受けながら、デューデリジェンスを進めます。
正式に譲渡される見通しが立ってきた場合は、引継ぎがスムーズに進められるよう、取引先との顔つなぎやノウハウや技術の伝承も並行して進めることが重要です。
後継者人材バンクを利用する際の注意点
こういった流れで、事業の引継ぎが進められていきますが、後継者人材バンクの利用には注意点もあります。
まず、事業者・創業希望者双方に共通するのが、「後継者人材バンクは、まだまだ知名度や実績が低い」ということです。そのため、後継者人材バンクだけで後継者・譲り受ける事業が見つかるとは限らない点です。
その他の注意点は、次の通りです。
1.事業者の注意点
後継者人材バンクは、あくまでマッチングを行う機関です。マッチングできた後継者候補が自社の後継者として適任かどうかもわかりません。マッチング後の面談で、事業を行う上での価値観などを聞き、後継者としてふさわしい人材かを見極めましょう。
また、親族との事業承継ではないため、引継ぎにあたって、従業員や事業についての方針なども含めて、さまざまな条件を取り決めておく必要があります。ただ、何もかも自分の思う通りにしてくれる後継者が現れることはまずありません。事前に、事業承継にあたっての条件と優先順位を考えておきましょう。
2.創業希望者の注意点
事業を引き継ぐ場合は、起業と比べると、経営の自由度が低くなります。立地が制限されるなどだけでなく、これまで働いている従業員などとのすり合わせも必要となるので、起業した場合とは異なる悩みも生まれるでしょう。
引き継いだ事業で借り入れがある場合、経営者として個人保証を引き継がなければなることもあります。この点は、遅くとも基本合意までの間に確認しておきたいところです。
おわりに
後継者人材バンクは、後継者不在に悩む小規模事業者と創業希望者をマッチングしてくれる機関です。公的機関である事業承継・引継ぎ支援センターが運営しているため、安心して利用できるものだと言えます。
とはいえ、引継ぎのために行うことは、M&Aと変わりありません。一般的なM&A支援機関がカバーしきれない部分を補っているだけです。事業者・創業希望者の双方が、その事業を引き継ぐことが、お互いにとっても事業にとっても良い形になるかどうかを考え、納得のいく形で引継ぎまで進めることが大切だと言えるでしょう。
この記事を書いた人
シニア・プライベートバンカー、MBA(経営学修士)、1級ファイナンシャルプランニング技能士、日本証券アナリスト協会認定アナリスト横山 研太郎
ねこのて合同会社 代表。大手メーカーで経理、中小企業の役員として勤務したのち、ファイナンシャルプランナーとして独立。金融機関での経歴がないからこそできる、お客様にとってのメリットを最大化するプランを提案している。オーナー企業での役員経験を活かし、経営コンサルティングからオーナー様の資産管理・資産形成まで、幅広い相談に対応できることを強みとする。