M&Aのアドバイザリー契約に不可欠な基礎知識、締結する前のチェックポイントを解説
2021.12.23 years前
M&Aで仲介会社からのサポートを受ける場合に「アドバイザリー契約」を締結します。アドバイザリー契約を締結することで、M&A仲介会社からどのようなサポートが受けられるのかを事前に知っておきましょう。
今回は、コンサルティング契約との違いにも触れながら、M&Aのアドバイザリー契約の基礎知識や締結にあたってのチェックポイントを解説します。
目次
M&Aのアドバイザリー契約とは
アドバイザリー契約とは、業務に関して社外からアドバイスを受けるために締結する契約です。M&Aについてのアドバイザリー契約では、M&Aの検討段階から、相手探し、交渉・譲渡契約までの一連の業務についてアドバイスを行います。なお、M&Aについてのアドバイスをする業者は「M&Aアドバイザリー」とも呼ばれます。
アドバイザリー契約を交わす目的
M&Aを行うにあたっては、法務・財務・労務・税務など、広い範囲の専門知識が不可欠です。M&Aという「日常的には発生しない特殊な業務」に必要なリソースを、社内人材だけで賄うことはまず不可能でしょう。毎年、何件ものM&Aをしている大企業でも、外部のアドバイザーを活用しているほどです。
コンサルティング契約との違い
コンサルティング契約とアドバイザリー契約は、似た意味にとらえられがちですが、サポートする範囲に違いがあります。
コンサルティングでは、特定ジャンルの課題について解決策を提示します。また、必要に応じて、クライアントの組織内に入り込んで活動することもあります。
一方のアドバイザリーでは、クライアントの課題に合わせて組織全体への広範囲のアドバイスを行い、組織に入り込んでの活動は行わないのが一般的です。
2種類の契約形態、専任契約と非専任契約の違い
M&Aのアドバイザリー契約は、「契約形態」と「交渉方式」で分類することができます。まずは、契約形態の違いについて説明します。M&Aのアドバイザリー契約は「専任契約」と「非専任契約」に分けられます。
【専任契約】
専任契約の場合は、アドバイザリー契約を結んだ業者とだけ話をしてM&Aを進めます。M&Aの交渉は秘密裏に行うため、情報漏洩を防ぐことが重要です。専任契約とすることで、情報漏洩リスクを低減させられます。
また、1社だけに自社の情報提供をすればよいため、M&Aに関わる従業員の手間を抑えることも期待できます。しかし、M&A相手を見つけるのに時間がかかってしまう可能性がある点がデメリットです。
【非専任契約】
一方の非専任契約は、他の業者ともM&Aのアドバイザリー契約が可能です。複数の業者からM&A相手を紹介してもらえます。また、それぞれの業者からアドバイスが受けられるため、より客観的な視点で検討できる点もメリットです。
しかし、売り手企業の場合は、いくつものM&A仲介会社から「こんな会社が売りに出されている」と紹介されると、「何か問題を抱えている会社かもしれない」と敬遠される可能性も否定できないでしょう。
2種類の交渉方式、アドバイザリー方式と仲介方式の違い
次に、交渉方式の違いです。交渉方式には「アドバイザリー方式」と「仲介方式」があります。
【アドバイザリー方式】
アドバイザリー方式は、M&Aの買い手・売り手それぞれが、別の業者とアドバイザリー契約を結ぶ方式です。自社のアドバイザーが自社の利益を最大化できるように交渉してもらえる点がメリットです。自社のことを深く理解してくれる優れたアドバイザーが見つかれば、よりよい成果が得られるでしょう。ただ、交渉過程で双方の求める条件が折り合わず、M&Aが不成立に終わる可能性もあります。
【仲介方式】
仲介方式は、1つのM&A仲介会社が、買い手・売り手双方とアドバイザリー契約を結ぶ方式です。買い手・売り手双方の条件を聞いたうえで、仲介会社が中立的な立場からアドバイスをして交渉を進めていきます。そのため、M&Aが成立しやすくなると言えるでしょう。事業承継目的など、最終的にM&Aの成立が必要な場合は仲介方式の方が望ましいため、中小企業のM&Aで多く使われているようです。
アドバイザリー契約を締結する前にチェックすべきポイント
M&Aは会社にとって大きな取引です。だからこそ、M&A仲介業者などとアドバイザリー契約を締結する際は、下記のような点を必ず事前に確認しておきましょう。
1.アドバイザリー契約の内容について
M&Aは水面下で交渉を進める部分が多くなります。だからこそ、秘密保持契約(NDA)も締結しておくことが大切です。またその際、どういった情報が秘密情報とされるのか、どのような場合に秘密情報が開示されるのかなどを確認しておきましょう。
2.報酬体系
アドバイザリー契約の報酬には、着手金・月額報酬・成功報酬などがありますが、報酬体系は各社で異なります。どのように報酬が発生するのか、M&A成立まででかかる報酬の総額がどれくらいなのかを確認しておきましょう。
なお、M&A不成立の場合に報酬を支払うのがためらわれるからと「成功報酬のみ」の業者がよいと考える人もいますが、必ずしもそうとは限りません。成功報酬のみであれば、アドバイザーが自社の利益を優先して、何とかしてM&A成立させようとする可能性もあるかもしれません。
3.最も大切なのはアドバイザーとの相性
アドバイザリー契約の内容も大切ですが、M&Aを成功させるために最も重要なのが「ヒト」です。専門知識が豊富なのは言うまでもありませんが、自社の業界に精通しているか、親身になって自社にとってよい結果になるよう尽力してくれるかなども大切なことです。
おわりに
M&Aを成功に導くには、幅広くアドバイス・サポートしてくれるM&Aアドバイザリーの力が不可欠です。自社の目的に合致するM&Aを実現するためにも、専任・非専任の契約形態、アドバイザリー・仲介の交渉方式を理解して、アドバイザリー契約を締結しましょう。ただ、契約形式以上に、アドバイザーとの相性も大切なので、信頼できる担当者かどうかを見極めることも忘れないようにしましょう。
この記事を書いた人
シニア・プライベートバンカー、MBA(経営学修士)、1級ファイナンシャルプランニング技能士、日本証券アナリスト協会認定アナリスト横山 研太郎
ねこのて合同会社 代表。大手メーカーで経理、中小企業の役員として勤務したのち、ファイナンシャルプランナーとして独立。金融機関での経歴がないからこそできる、お客様にとってのメリットを最大化するプランを提案している。オーナー企業での役員経験を活かし、経営コンサルティングからオーナー様の資産管理・資産形成まで、幅広い相談に対応できることを強みとする。