M&Aでのレーマン方式のメリット・デメリット、計算方法とチェックポイント
2021.10.213 years前
M&Aが成功した場合に支払う手数料は、成功報酬として取引した会社の規模によって変わってくるのが一般的です。その成果報酬を計算するときに用いられるのが「レーマン方式」です。特殊な計算方法ですが、M&Aの仲介手数料の大部分を占める成功報酬の計算方法となっていることが多いため、計算方法とメリット・デメリットを理解しておきましょう。
目次
レーマン方式とは
レーマン方式は、M&Aの成功報酬の計算などで使われることがあるもので、ドイツの経済学者レーマンの考え方を応用した計算方法です。取引金額がいくらであっても一定の料率で手数料が決められるのではなく、取引金額が大きくなると(部分的に)料率が低下していく仕組みになっています。
M&Aの成果報酬以外に、不動産仲介手数料の上限額やクラウドファンディングの手数料などでもレーマン方式が使われています。
M&Aにおけるレーマン方式
M&Aにおいては、M&Aの成立時点で発生する成果報酬の部分でレーマン方式が用いられています。成功報酬はM&Aにかかる手数料の中で最も金額が大きくなる部分です。M&Aを検討するにあたり、計算方法をしっかりと理解しておきたいところです。
ただし、どの業者であっても成功報酬にレーマン方式を使うと決まっているわけではなく、計算基準が異なることもあります。事前に内容を確認しておきましょう。
M&Aのレーマン方式の計算方法
ここで、最も一般的に使われている料金体系を元にして、レーマン方式の計算方法を見てみましょう。
【料率例】
取引価格 | 手数料率 |
~5億円 | 5% |
5億円超~10億円 | 4% |
10億円超~50億円 | 3% |
50億円超~100億円 | 2% |
100億円超 | 1% |
取引価格に応じて料率が決まるのではなく、「5億円までの部分は5%」「5億円を超え10億円までの部分は4%」と計算します。
例:取引価格が15億円の場合
取引価格 | 手数料率 | 金額 |
~5億円 | 5% | 5億円×5%=2,500万円 |
5億円超~10億円 | 4% | (10-5億円)×4%=2,000万円 |
10億円超~15億円 | 3% | (15-10億円)×3%=1,500万円 |
合計 | - | 6,000万円 |
M&Aでのレーマン方式のメリット・デメリット
レーマン方式でM&Aの成功報酬が決められるメリットは、「バランスの取れた報酬体系」になることです。
M&Aは、規模の大小に関係なく、デューデリジェンスで詳細な企業の現状分析を行い、最終契約になれば複雑な契約書の作成が必要です。もちろん、M&A対象の会社の規模が大きいほど、デューデリジェンスでチェックする項目も増えますし、契約内容もより詳細かつ複雑なものになります。
とはいえ、会社の規模が2倍になったからといって、M&Aに関する手間や工数も2倍になるわけではありません。レーマン方式を採用することで、この点を解消することができるといえます。
その一方で、このことがデメリットになる場合もあります。小規模なM&Aであれば、レーマン方式で計算した成果報酬は、割高に見えることもあります。専門性のある複雑な業務を引き受けてくれているので、ある程度まとまった金額の成果報酬を支払わなければならないのは事実ですが、小規模なM&Aの場合は固定報酬の方が良い場合もあるでしょう。
レーマン方式で支払う際のチェックポイント
このような特徴を持ったレーマン方式ですが、M&Aを検討するときにチェックしておかなければならない点があります。このチェックポイントは、M&A仲介業者と契約をする前に必ず確認しておいてください。後になって、「違う報酬体系の仲介会社にしておくべきだった」と気づいても、契約内容を変更してもらうことはできませんし、他の仲介会社に乗り換えることもできません。
では、レーマン方式で気をつけるべき2つのチェックポイントを紹介します。
1.レーマン方式で計算する成功報酬以外の手数料を確認する
M&Aに関する手数料体系は、業者によって異なります。成功報酬だけの業者もあれば、着手金などのコストがかかってくる業者もあります。
成功報酬以外のコストには、次のようなものが挙げられます。
- 着手金:アドバイザリー契約時に発生するコスト
- 中間報酬:基本合意契約が締結された時などに発生するコスト
- 月次報酬:M&Aの相手探しや交渉期間中に発生するコスト
- デューデリジェンス費用:デューデリジェンスで調査をする専門家に支払うコスト
レーマン方式で計算する成功報酬に、「最低金額」が設けられている場合もあります。
ただ、成功報酬以外のコストがかからないから良心的な業者とは限りません。コストを抑えるために、提供するサービス内容を狭めている場合もあります。金額だけではなく総合的な判断が必要です。
2.成功報酬を計算する基準となる取引金額が何かを確認する
レーマン方式で成功報酬を計算する基準になる取引金額ですが、「何を取引金額とするか」も業者によって異なります。
基準となる取引金額には次のようなものが挙げられます。
- 株式価値:買い手と売り手の間で受け渡された株式の譲渡対価
- 企業価値:株式価値に有利子負債(借入金)を加算した金額が基準になる
- 移動総資産:M&A対象の会社の総資産金額。株式価値に負債も加えた金額が基準になる
- オーナー受取額:株式価値に、役員借入金などを加算した金額が基準になる
借入金が多い会社の場合、どの基準になるかで成果報酬の金額が数百万円単位で大きく変わります。一般的なイメージで株式価値基準と思い込んでいると、M&Aが成立した後に思わぬ出費で事業に悪影響を与えかねません。事前に、取引金額の基準が何になっているのか確認しておきましょう。
M&Aの手数料については以下の記事もご参照ください。
おわりに
M&Aの成功報酬は、レーマン方式で定めている仲介業者が大多数です。あまり一般では見ない計算方法なのでなじみがありませんが、計算方法は理解しておくに越したことはありません。
そして、もう1つ大切なのが、取引価格の基準です。株式価値以外にも企業価値や移動総資産で計算する場合もあり、成果報酬の金額が大きく変わるポイントになります。仲介業者との契約前にしっかり確認しておきましょう。
この記事を書いた人
シニア・プライベートバンカー、MBA(経営学修士)、1級ファイナンシャルプランニング技能士、日本証券アナリスト協会認定アナリスト横山 研太郎
ねこのて合同会社 代表。大手メーカーで経理、中小企業の役員として勤務したのち、ファイナンシャルプランナーとして独立。金融機関での経歴がないからこそできる、お客様にとってのメリットを最大化するプランを提案している。オーナー企業での役員経験を活かし、経営コンサルティングからオーナー様の資産管理・資産形成まで、幅広い相談に対応できることを強みとする。