M&Aのリテイナーフィーを解説、支払う前にチェックしておきたいポイント
2021.12.103 years前
M&Aでは、仲介業者等にリテイナーフィーという月額報酬を支払わなければならないことがあります。実際に支払うことになった場合、決して安いものではないため、事前に金額を確認しておくだけでなく、リテイナーフィーがかかることのメリット・デメリットも理解しておいた方が良いでしょう。
そこで本記事では、M&Aのリテイナーフィーについて、どのようなことに対するコストなのか、契約する前にチェックしておきたいことを解説します。
目次
リテイナーフィーとは
リテイナーフィーとは、M&Aの支援を仲介業者やアドバイザリー会社に依頼した場合に支払うことになる「月額報酬」です。M&A支援に関する「顧問料」のようなイメージです。
具体的には、調査・分析・戦略立案・面談など、M&A仲介業務に関するサービスに対して支払うものと言えます。そのため、M&Aの成約につながらなかったとしても返金されない費用である点に注意が必要です。
M&A仲介業者によっては、「着手金」をリテイナーフィーと呼んでいる場合もありますので、見積書や料金表の内容を見て、どのような形でかかってくる費用なのかを確認するようにしましょう。
M&Aのリテイナーフィーの料金体系
リテイナーフィーは、M&A支援をしてもらう場合に必ずかかるものとは限りません。業者によって料金体系は変わりますが、次のようなパターンに分類することができます。
- 着手金としてのリテイナーフィー
- 月額報酬のリテイナーフィー
- 着手金+月額報酬のリテイナーフィー
- リテイナーフィーなし
最近は、リテイナーフィーがかからない「成功報酬のみ」の料金体系にしているM&A仲介業者も増えてきました。リテイナーフィーがかからない場合は、基本合意契約の際にかかる「中間報酬」と、最終契約の際にかかる「成功報酬」のみ必要です。
リテイナーフィーは、M&Aが成立してもしなくてもかかる費用であるため、M&Aをするかどうかも含めて検討中なのであれば、結局、M&Aをしないという選択をした場合には「不要なコストがかかってしまった」と感じてしまうかもしれません。
その場合は、リテイナーフィーがかからない成功報酬のみの業者を選ぶという選択肢もあります。
M&Aのリテイナーフィーの相場
リテイナーフィーは、月額固定でかかるケースが一般的です。しかし、M&Aの成功報酬には「レーマン方式」という計算方法で決まるケースが多いですが、リテイナーフィーには決まった相場はありません。
依頼内容や担当者によって異なりますが、月額で数十万円程度から数百万円程度かかることもあります。また、M&Aで最適なマッチング相手を見つけ、最適な条件で取引を成立させるためには、ある程度まとまった期間が必要になることもあり、6か月・1年などの最低契約期間が設定されます。
なかなか相手が見つからなかったり、デューデリジェンスや譲渡価格の交渉に時間がかかったりした場合には、その分のリテイナーフィーも加算されてコストが大きくなってしまう点にも注意してください。
リテイナーフィーが必要ない「成果報酬のみ」だから良いとは限らない
通常、リテイナーフィーは、M&Aが成立しても、成功報酬の一部として充当されることはありません。つまり、同じ成功報酬のM&A案件が成約した場合、リテイナーフィーが必要なM&A仲介業者よりも、成果報酬のみの業者の方が、M&Aにかかるコストが安く抑えられることになります。
ただ、だからと言って、成果報酬のみの業者に依頼する方が良いとは限りません。
M&A仲介業者の立場から考えると、「成果報酬のみ」ということは、「できる限り早く案件を成立させること」や「可能な限り手間を減らすこと」が自社の利益を大きくすることにつながります。そのため、M&Aの相性よりも短期間で成立させることを重視してしまう業者・担当者も中に入るのです。
また、マッチングしそうな相手が見つかりにくい案件では、相手探しをほとんどせずに放置されてしまうリスクもあるのです。
逆に、リテイナーフィーが必要な仲介業者の場合は、着手金や毎月かかる費用に見合った成果を出そうと、マッチング相手をより積極的に探してくれる可能性もあります。
リテイナーフィーを支払う前にチェックしておきたいポイント
では、リテイナーフィーが必要なM&A仲介業者に依頼する場合、契約する前にどのようなことをチェックしておけばよいのでしょうか。
(1)リテイナーフィーを支払う期間が長くなる可能性がある
リテイナーフィーが毎月かかる場合、その費用は、M&Aが成立した場合の成功報酬と比べると少ないですが、決して安いものであありません。また、M&Aはマッチングからデューデリジェンスを経て最終契約まで長い時間がかかるものです。最低契約期間中にクロージングまでできるとは限りませんので、それ以上に長い期間、リテイナーフィーを支払うことになるのを想定しておきましょう。
(2)サンクコスト効果に注意
マッチング相手がなかなか見つからない場合、その分だけリテイナーフィーも大きくなってしまいます。
この時に注意すべきなのが「サンクコスト効果(コンコルド効果)」です。これは、「今までに支払ったお金がもったいないと感じてしまい、やめる決断ができずに、追加でコストを支払い続けてしまう」というものです。
M&Aでは最適な相手とのマッチングが大切なのにもかかわらず、リテイナーフィーが積みあがることによって、「何とかしてM&Aを成立させなければ」という気持ちになってしまう可能性があります。そのために、最善とは言えないM&Aにつながってしまえば、買い手・売り手双方の経営者・従業員にとっても不幸な結末になってしまでしょう。
おわりに
M&Aのリテイナーフィーは、M&Aの仲介業者等に支払う月額報酬です。業者によっては、着手金をリテイナーフィーと呼んでいることもあります。最近は、リテイナーフィーが不要の成果報酬のみの業者も増えていますが、だからと言って、リテイナーフィーの有無で良い業者かどうかを判断することはできません。
結局は、自社のことを親身に考えてくれる業者・担当者かどうか、自社と同業種について詳しい知識を持っているかなどが重要なので、リテイナーフィーがある場合、ない場合それぞれのデメリットにも注目したうえで、信頼できる仲介業者を探すようにしましょう。
この記事を書いた人
シニア・プライベートバンカー、MBA(経営学修士)、1級ファイナンシャルプランニング技能士、日本証券アナリスト協会認定アナリスト横山 研太郎
ねこのて合同会社 代表。大手メーカーで経理、中小企業の役員として勤務したのち、ファイナンシャルプランナーとして独立。金融機関での経歴がないからこそできる、お客様にとってのメリットを最大化するプランを提案している。オーナー企業での役員経験を活かし、経営コンサルティングからオーナー様の資産管理・資産形成まで、幅広い相談に対応できることを強みとする。