ポイズンピル(毒薬条項・ライツプラン)は敵対的買収の防止策に用いられる手法
2021.8.263 years前
ポイズンピルとは、敵対的買収を仕掛けられたとき、新株発行をして買収者の持株比率を押し下げて買収を困難にする買収防衛策です。被買収リスクが生じる前から準備ができ、敵対的買収者が現れるリスクを減らす効果も期待できますが、安易な導入・発動は、株主との関係性に悪影響を及ぼす可能性もあります。
そこで、ポイズンピルがどのようなものかを、メリット・デメリットまで含めて理解しておきましょう。
目次
ポイズンピル(毒薬条項)とは
ポイズンピルとは、敵対的買収に対抗する手段として用いられるものです。
具体的には、敵対的買収が仕掛けられた後に新株を発行し、買収者の持株比率を高められないようにします。すると、敵対的買収が難しくなるため、ポイズンピルを導入していること自体が敵対的買収を抑止する効果にもつながるというわけです。
正式名称は「ライツプラン(Rights Plan)」と呼ばれますが、「ポイズンピル(毒薬条項)」という呼び名の方がよく知られているため、本記事でも「ポイズンピル」と表記します。
ポイズンピルの2つの手法
ポイズンピルは大きく分けて2つの手法があります。ひとつは「事前警告型ポイズンピル」で、もうひとつは「信託型ポイズンピル」です。それぞれの特徴は次のようになっています。
事前警告型ポイズンピル
敵対的買収者に対して、ポイズンピルを実行する前に警告を行うのが「事前警告型ポイズンピル」です。敵対的買収者の目的がよくわからない場合や良くない目的である場合などに、被買収者が「買収目的の開示」を求めます。それに対する回答が納得できないものであると、ポイズンピルを実行し、新株を発行します。
こうしてポイズンピルが実行されると、敵対的買収者以外だけが行使できるストックオプションが株主に付与されます。ストックオプションを行使する株主が多ければ、その分だけ敵対的買収者の持株比率が下がり、買収が困難になるのです。
一方、買収目的が開示され、納得できる回答であったり事業計画が提出されたりした場合は、その情報を株主に開示するケースが一般的です。それを元に株主が判断するので、敵対的買収が成立する可能性もあり、買収防衛策として完全なものとは言い切れません。
信託型ポイズンピル
信託型ポイズンピルは、新株予約権を事前に発行しておき、それを信託銀行に預ける手法です。敵対的買収者が現れ、ポイズンピルの実行が必要になると、信託銀行が株主に新株予約権を交付します。
なお、ポイズンピルの発動にあたっては第三者機関からの勧告が必要で、経営者の保身のために使われることがない仕組みです。
信託型ポイズンピルは、事前警告型よりも確実に発動させることができます。また、敵対的買収者と交渉を進めた結果、買収を受け入れて発動させないという決断も可能なため、より自由度の高い手法と言えるでしょう。
ポイズンピルでなぜ敵対的買収を阻止できるのか?
ポイズンピルを発動させることで、敵対的買収者の持株比率を下げることができますが、その仕組みはどのようになっているのでしょうか。
買収前 | 発動前 | 発動後 | ||||
敵対的買収者 | 0 | (0%) | 2,000 | (20%) | 2,000 | (11%) |
その他株主 | 10,000 | (100%) | 8,000 | (80%) | 16,000 | (89%) |
発行済株式総数 | 10,000 | (100%) | 10,000 | (100%) | 18,000 | (100%) |
50%超までの株式数 | 5,001 | 3,001 | 7,001 |
※敵対的買収者の持株比率が20%になった場合に、株主に持株数と同数の新株予約権が与えられ、すべて行使されたと仮定
上記の例のように、ポイズンピルが発動し、株主が新株予約権を行使することで、敵対的買収者の持株比率が低下してしまいました。
その結果、買収を成功させるためには、通常よりも多額の費用と時間がかかることになります。敵対的買収者はこういったリスクを想定しなければならないため、買収候補から外すこともあるでしょう。
ポイズンピルを実施するメリット
このように、ポイズンピルは買収されるリスクを下げることができる手法と言えます。また、敵対的買収を仕掛けられる前にじっくり準備することができ、いざというときに素早く対応することができる点もメリットです。
ポイズンピルのデメリット・注意点
しかし、ポイズンピルは万能の買収防衛策ではありません。敵対的買収者が、ポイズンピルによって持株比率を引き下げられても、さらに資金をつぎ込んで買収しようとすれば、それを止める手立てはありません。
さらに注意すべきことは、「株主との関係性」です。経営者は、株主から企業価値の最大化を求められています。そのため、ポイズンピルを発動させてもよいのは、「敵対的買収によって、自社の企業価値が毀損される場合」のみのはずです。
企業価値を高められる買収である場合、敵対的買収とみなしてポイズンピルで排除しようとすると、「企業価値を毀損させたとしても、経営者が保身に走っているのではないか?」と判断されかねません。
また、ポイズンピルの導入自体が、既存株主に受け入れがたい可能性があることも理解しておきましょう。新株予約権の取得や行使にあたって金銭が必要であれば、株主に負担を強いる制度となってしまいます。
仮に株主にほとんど負担がないとしても、新株発行による希薄化を嫌う投資家も少なくないため、ポイズンピルの導入自体を快く思わない株主もいるかもしれません。株主のためにならない新株発行だと考えられてしまうと、最悪の場合は、新株発行差し止め請求されるリスクもあります。
おわりに
ポイズンピルは、適切に使えば、敵対的買収を防ぐことができる手段です。しかし、制度を導入したり発動させたりすることが、自社のリスクにもなります。
敵対的買収を仕掛けられる場面は、他社から見て「自社の株価が正当に評価されていない(安い)証拠」とも言えます。経営状態を良くし、それを株主に正当に評価してもらうことで、そもそも敵対的買収のターゲットにされないような経営をすることが第一だと言えるでしょう。
この記事を書いた人
シニア・プライベートバンカー、MBA(経営学修士)、1級ファイナンシャルプランニング技能士、日本証券アナリスト協会認定アナリスト横山 研太郎
ねこのて合同会社 代表。大手メーカーで経理、中小企業の役員として勤務したのち、ファイナンシャルプランナーとして独立。金融機関での経歴がないからこそできる、お客様にとってのメリットを最大化するプランを提案している。オーナー企業での役員経験を活かし、経営コンサルティングからオーナー様の資産管理・資産形成まで、幅広い相談に対応できることを強みとする。