株式取得の5種類の手法&株式取得を選ぶポイントを解説
2021.7.173 years前
株式取得は、その名の通り「株式を取得して経営権を手に入れる」手法です。ただ、どのようにして株式を取得するのかで5つの方法に分類することができます。それぞれの方法の概要を知り、株式を取得する目的に合わせて、どの方法を選ぶべきかを考えましょう。今回は、株式取得の5つの方法と選び方について解説します。
株式取得とは?
株式取得は、株式を取得することで経営権を手に入れるM&A手法の総称です。全株式を取得しないと経営権が手に入らないのではなく、所有割合に応じて、株主総会での影響力が変わります。
所有割合 | 行使可能な権限 |
100% | 他の株主はおらず、完全な支配権が得られる |
3分の2以上 | 単独で普通決議・特別決議を通すことができる |
過半数 | 単独で普通決議を通すことができる |
3分の1超 | 特別決議の拒否権が得られる |
25%以上 | 持ち合い株式の議決権を制限できる |
株式を取得する企業への影響力をどの程度得たいかで、最低でもどれだけの株式を取得しなければならないかが変わります。
株式取得の5種類の手法
株式を取得する方法は5種類に分類できます。それぞれの方法の特徴は次のようになっています。
1.株式譲渡
もっとも一般的な株式取得方法が、株式譲渡です。既存株主と譲渡交渉するなどして、現金などの対価を支払い、株式を購入します。売り手は株主ではなくなるため、オーナー経営者のイグジットプラン・リタイアメントプランとして活用することも可能です。
2.株式交換
株式交換は、既存会社の株式を自社の株式と交換して、完全子会社化するものです。子会社化した会社の株主は、自社の株主に変わるため、自社の経営権変化についても考慮しておく必要があります。
3.株式移転
株式移転は、新設会社が既存会社の全株式を入手して、完全子会社化するものです。通常、既存株主に支払う対価は、新設会社の株式です。異なる株主がいる複数の会社で株式移転する場合、株主構成が大きく変わる可能性があります。
4.第三者割当増資
第三者割当増資は、新しく発行した株式を、特定の投資家に購入してもらうものです。新株の割合を多くすることで経営権を移転させられるため、増資とM&Aを兼ねた手法として活用することができます。
ただし、既存株式の希薄化をともなうため、既存株主からの反発が起きるリスクもあります。
5.新株予約権の行使
新株予約権を保有している場合、その権利を行使することで新株を取得することができます。新株予約権のみのものもあれば、社債を新株に転換する権利を付与した転換社債(CB)もあります。
株式取得を選ぶポイント
このように、株式取得と言ってもさまざまな手法があります。では、どの手法を選べばよいのでしょうか。いくつかの例と考えられる株式取得方法について紹介します。
1.他社の経営権を手に入れて事業拡大したい
株式譲渡 | 買収資金が用意できる
自社の株主構成に影響を与えたくない |
株式交換 | 完全子会社化したい
多額の資金をかけた買収をしたくない 自社の株主構成に影響が出ても構わない |
第三者割当増資 | 買収資金が用意できる
完全子会社化でなくても構わない 買収先を成長させるためには資金が必要 |
2.他社と業務提携したい
株式譲渡 | ある程度の株式を保有することで、業務提携関係を結びたい |
株式移転 | 提携先をグループ化することで、シナジーを効かせた業務提携関係を作りたい
自社の株主構成に影響が出ても構わない |
第三者割当増資 | 提携先に対して、ある程度の影響力を持ちたい
提携先を成長させるためには資金が必要(資金調達したい) |
新株予約権 | 今すぐに出資するかどうかは決められない(新株予約権か転換社債の購入にとどめておく)
提携先を成長させるためには資金が必要(資金調達したい) |
3.オーナー経営者がリタイアしたい場合
株式譲渡 | 後継者が決まっている。または、株式の譲渡先が後継者を見つけられる
株式を換金したい |
株式交換
株式移転 |
株式を換金しなくてもよい
親会社の株式を保有したい |
第三者割当増資 | 株式を換金しなくてもよい
リタイア後も自社の株主でいたい |
※選択肢として挙げたものの、株式交換・株式移転・第三者割当増資を使うケースはほとんどありません。
4.グループ再編したい場合
株式交換 | 持株会社化したい
グループ会社を子会社化したい |
株式移転 | 持株会社化したい
(グループ外の会社を交えての共同持株会社化も可能) |
こういった活用方法がありますが、共通点は、合併や会社分割などの他のM&A手法と比較すると、手続きやPMIが比較的簡単であることです。
株式取得で生じるのは「株主が変わることだけ」であり、既存会社は存続する前提です。許認可を取りなおす必要はありませんし、異なる文化を持つ会社が同じ場所で仕事をするようになるわけでもありません。
おわりに
株式取得には、「株式譲渡」「株式交換」「株式移転」「第三者割当増資」「新株予約権の行使」という5つの方法があります。M&Aの中では、一般的で比較的シンプルな手続きでできるものもあります。
とはいえ、会社法などで定められたルールの範囲内で行うものであるため、専門的な知識が不可欠です。アドバイザーを活用するなどして、慎重に着実に進めるようにしましょう。
この記事を書いた人
シニア・プライベートバンカー、MBA(経営学修士)、1級ファイナンシャルプランニング技能士、日本証券アナリスト協会認定アナリスト横山 研太郎
ねこのて合同会社 代表。大手メーカーで経理、中小企業の役員として勤務したのち、ファイナンシャルプランナーとして独立。金融機関での経歴がないからこそできる、お客様にとってのメリットを最大化するプランを提案している。オーナー企業での役員経験を活かし、経営コンサルティングからオーナー様の資産管理・資産形成まで、幅広い相談に対応できることを強みとする。