株式交換の目的とは?メリット・デメリット、手続きの流れを解説

M&Aの手法

2021.7.173 years前

株式交換の目的とは?メリット・デメリット、手続きの流れを解説

株式交換は、子会社となる企業の全株式を自社の株式と交換して完全子会社化するM&A手法です。現金を使わずに買収が可能で、全株主と個別に譲渡交渉する必要もないため、経営統合やグループ再編などにも活用されています。複雑な規制がありますが、適切に使えば、便利な方法であることも事実です。今回は、株式交換について、どのようなケースで使われるのか、メリット・デメリットなどを解説します。

株式交換とは?

株式交換とは、既存の株式会社同士でそれぞれの株式を交換し、完全親会社と完全子会社の関係にするM&A手法です。完全子会社となる側の株主が保有する全株式を、完全親会社となる会社が、自社の株式と交換します。それにより、「完全子会社となる側の株主だった投資家」が「完全親会社の株主」となり、親会社が子会社の全株式を保有する100%の親子関係を作ることができます。

株式交換の目的

株式交換をすることで、「現金を支払うことなく」別法人を完全子会社化できます。その特徴を用いて、通常の買収以外に、経営統合やグループ再編を目的としたM&Aで活用されるケースもあります。

株式交換を行うケース

具体的な株式交換が行われるケースは、次のようなものが挙げられます。

  • 1.完全子会社化を目的としたM&A
  • 2.持株会社(ホールディングス)化
  • 3.上場企業の非上場子会社化

株式交換のメリット・デメリット

こういったケースで株式交換が行われるのは、次のようなメリットがあるためです。買い手・売り手それぞれについて、デメリットもあわせて解説します。

買い手のメリット

1.現金を使わずに子会社化できる
売り手の株式を手に入れる際、自社の株式と交換することで対価の支払いができます。つまり、手持ちの現金を使わずに子会社化できるのです。自社の株価が高ければ少しの株式交付で買収でき、多額の資金調達をする必要もありません。

2.強制的に全株式を入手できる
株式を譲渡してもらうためには、本来は各株主との交渉が必要です。しかし、株式交換は両社の株主総会での特別決議で有効に成立します。決議されれば、反対していた少数株主の株式を強制的に買い上げる手続きが可能となります。

買い手のデメリット

1.手続き、規制が複雑
株式交換を進めるためには複雑な手続きを踏まなければなりません。また、適格要件を満たしていない場合(後述)には、株式の譲渡損益に課税されるなど、税制上の規制もあります。

2.買い手企業の株主構成が変わる
株式交換によって、売り手側の株主が買い手側の株主に変わります。株主構成が変化するため、大株主の経営権に影響が出る可能性があります。また、株式交換にあたって既存株主が希薄化を嫌がる懸念もあります。

売り手のメリット

1.(売り手企業は)独立した企業として経営が続けられる
買い手企業と売り手企業は、親子関係はあるものの、それぞれ別企業として事業を継続します。そのため、異なる企業の従業員が同じ場所で働く場合と比較して、統合が困難になりにくい、従業員からの反発が出にくいという特徴があります。

とはいえ、売り手企業側は完全子会社となるため、経営方針が大きく変わる場合には注意が必要です。

2.(売り手企業の株主は)親会社となる買い手企業の株主になれる
売り手企業の株主は、株式を買い取られるのではなく、親会社の株主となれます。

売り手のデメリット

1.手続き、規制が複雑
買い手の場合と同様のデメリットがあります。

2.(売り手企業の株主は)親会社株式を得ることでのリスクもある
親会社の株主となれますが、異なる事業内容を含む企業だった場合、株主として他事業のリスクも抱える投資をしていることになります。
さらに、買い手企業が非上場企業の場合、株式の現金化が困難です。上場企業であった場合は、株価変動リスクがあります。

株式交換の手続きの流れ

株式交換の手続きは、簡単にまとめると次のような流れで進められます。

1.株式交換契約書を締結
合意が得られれば、両社の取締役会の決議を経て、株式交換契約書を締結します。その後、法律に定められている事前開示書類を備え置きます。

2.株主総会の特別決議・反対株主の株式買取
株式交換を実行するか、両社の株主総会の特別決議に諮ります。議決権を持つ株主の過半数が参加し、3分の2以上の賛成で可決されます。また、反対株主は株式を会社に買取請求できる権利があるため、その対応が必要です。

3.債権者保護手続き
一部の債権者を保護する手続きが必要です。対象となるのは、「対価の支払いを株式以外で行う場合」と「売り手企業の新株予約権付社債を買い手企業が承継する場合」の債権者です。

4.金融商品取引法に定められた手続き
金融商品取引法の対象となる企業の場合は、「臨時報告書」「有価証券届出書」「有価証券通知書」の開示が必要です。

5.株式交換の効力発生後、登記などの手続き
株式交換が効力発生したのち、登記の変更や新株発行など、必要な手続きを進めます。また、事後開示書類を備え置きます。

株式交換を行う際の注意点

株式交換を行うにあたっての主な注意点には、次のようなものがあります。

1.子会社が親会社株式や自社株式を保有していてはならない
会社法で、子会社が親会社の株式を保有することは、原則として禁止されています。株式交換をした際には例外として許容されていますが、「相当の時期に」処分しなければなりません。また、子会社が自社株式を保有している場合も処分が必要です。

2.税務上・法務上複雑な要件が多い
デメリットとして紹介した通り、株式交換は、複雑な規制が定められています。例えば、「適格要件」を満たしている場合は、子会社の株主が株式を譲渡したことで課税されることはありませんが、その要件をきっちりと確認しておかなければなりません。

おわりに

株式交換は、現金を用意しなくても、買い手企業の株式を交付することで完全子会社化できる手法です。そのため、経営統合やグループ再編などにも活用することが可能です。

ただ、さまざまな法律や制度の知識をもって、複雑な手続きを進めていかなければなりません。どんな弁護士や税理士でも取り扱える案件ではないため、M&A仲介会社など、専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。

この記事を書いた人

シニア・プライベートバンカー、MBA(経営学修士)、1級ファイナンシャルプランニング技能士、日本証券アナリスト協会認定アナリスト横山 研太郎

ねこのて合同会社 代表。大手メーカーで経理、中小企業の役員として勤務したのち、ファイナンシャルプランナーとして独立。金融機関での経歴がないからこそできる、お客様にとってのメリットを最大化するプランを提案している。オーナー企業での役員経験を活かし、経営コンサルティングからオーナー様の資産管理・資産形成まで、幅広い相談に対応できることを強みとする。

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